第27話 わざとどこかで見たことがあるような顔にしている
ネビアに石を投げつけた女占い師マジョーは、硝子の塔にいるプーの子を何としてでも手に入れたかった。
村にはジャッカルと占い師の娘との間にできた混血の子がいた。母親は断食占い師で、丘の上で目を瞑って断食をしていたときに、ジャッカルに犯されてしまった。父親のジャッカルはドラクロワに殺されてしまった。断食占い師は、ドラクロワを今も恨んでいる。
断食占い師は今日も断食していた。断食占いの不便な点は、断食している間は、子どもの面倒を見ることができず、子どもも一緒に断食をしなくてはいけないところにあった。子どもはトロイと名付けられた。
マジョーは断食占い師が断食している間に、獣の子トロイを盗み、硝子の塔へ向かった。マジョーは女を買いたいと申し出た。アマリアと少しの間トランプゲームをしたい。
どこかで見た顔だなとオブジェウスは頭を傾げた。
「わざとどこかで見たことがあるような顔にしている」とマジョーはひどく動揺して受け答えた。
マジョーとアマリアは硝子の部屋でトランプをして楽しんだ。揺り篭にプーの子が眠っていた。
「その子の名前は?」とマジョーは訊ねた。
「バビリッシュ」
二人はカードで負けたら、トランプの数を数え終わるまで目を瞑るという条件でゲームをした。マジョーはいかさまを使い、カードをすりかえた。負けたアマリアは同性の子に何をされるのだろう、と不安を感じながらも目を閉じた。手の中のカードを一枚ずつ床に置くと、声に出して枚数を数えた。目を開けると、マジョーの姿はなく、かわりにお金が置いてあった。変わった女の子だなと思いつつも、代金を取り損なうことはなかったので、あまり深く考えなかった。アマリアは揺り篭の中に入って眠っている赤子が、人間と獣の子トロイだということに気付かなかった。マジョーはカードのついでに、子どもまですりかえていた。
これからトロイはバビリッシュの人生を、バビリッシュはトロイの人生を歩むことになるだろう。バビリッシュだけをさらってしまったら、アマリアかオブジェウスかは、きっと占い師を頼り、消えた赤子の行方を簡単に突き止めてしまうだろう。占う必要がなければ、誰も真実を占えないのだ。
バビリッシュを抱いたマジョーは、占いの神は占い族の村へ、それが本来あるべき場所へ返してもらうわよ、と思いながら、帰りの道を急いだ。
断食占い師はまだ断食していた。マジョーは、断食占い師に、あなたが断食をしている間、私がかわりにトロイのお守りをしてあげるわよと申し出た。その申し出で、初めて断食占い師は我が子トロイを生命の危険にさらしていることに気付いた。母親は感謝し、マジョーの好意に甘えた。獣の子だから指を食われないようにね、と笑い、卵占い師から買った卵に塩をかけて食べた。
断食占い師の断食は三日間だった。三日もすれば、占いの答えはおぼろげながら現れるので、それ以上の日数は特に必要なかった。三日間だけマジョーはプーの息子のバビリッシュを抱いていられた。占い族の村ができた頃、エリーがプーを抱いていられたのは三日間だけだったことをマジョーは知らなかった。
いつの間にかマジョーの顔がエリーの顔に変わっていることに、誰も気付かなかった。
三日が過ぎ、トロイを断食占い師の手に返すときに、エリーの顔は海面に沈むように、なくなっていた。
一つだけ確かなことは、アマリアはトロイをバビリッシュのように愛していたし、断食占い師はバビリッシュをトロイのように愛していた。マジョーは二つの愛情が、天秤の上で時が止まったように釣り合っているのを見届けると、自分は何も悪いことなどしていない、神もまた賭けに負けて、カードの数を数え終えるまで、まぶたを閉じていたのだ、と思うようになった。
ストーカー家の者たちは、成長したバビリッシュが野獣のように硝子の塔にへばりついて屋上まで素手で登っていくのを見ても、変わった子がうちの家系に生まれた、程度にしか思わなかった。誰もバビリッシュの秘密の来歴を占い師に尋ねなかった。
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