第16話 読むことによって妊娠して

 ドラクロワはプーの最期の占いが書かれた紙を読んでいた。本当にただの動かない石像になってしまったかのように岩の上に座ったまま微動だにしなかった。座ったときに石の呪いが、岩に接したドラクロワの尻から流れ込んでいるために、動くことができないかのようだった。今ここに事情を知らない旅人がいたとして、これは「紙を読む人」と名付けられた石像だ、汚れるから手で触れないようにな、と注意を促せば、その言葉を信じ、いつまでも鑑賞し続けただろう。

 ウラギョルが「紙を読む人」の背後に立った。

「まだ分からんのか、ドラクロワ。お前がここにいるだけで、占い族は占いの力を見失うのだ。エリーとプーを殺したのはお前だ。やがてブザーも死ぬ。お前のせいで死ぬ。お前は偉大なる災いなのだ」

 その日、ドラクロワとウラギョルは村から消えた。

 ここに一つの真実がある。

 オゾン大公妃がプーに取り付けた時限爆弾の中身には火薬は入っていなかった。

 ただの爆弾のふりをしていたガラクタだった。

 プーが残したインクで書かれた予言詩を読みあげる。

 第二代占王時代に、「書かれた時点で、もう読むことはできない」と占王の友人ベーテ・スキャーネルが占王に語ったこの予言は、どんな占い師でも読み解くことができなかった。


「滴った血が大地を飲み込み、星を清め、杯に注がれる。血は貴方の言葉になる。言葉は貴方の血になる。貴方は何を読む? 詩、占い、物語。みんな言葉の首飾りで、できている。読むことによって妊娠して、嘘をついた壁を乗り越えて、愛を鎖に通した者は、首が曲がっても、現実と虚構の天秤で貴方を待っている。抱きしめて。顔の中にもう一つの顔、でも誰を騙すというの? 子どもを捨てて、子どもを拾って、すべての棺桶の中には誰もいないのよ、貴方以外は。永遠の血を持つものがいたら、空に文字を埋めて、きっと貴方へと、孤独の首飾り。眠っているとき、貴方は目覚めている。夜が明けるまで歌って、罪の獣。一枚の紙が、すべての鏡を滅ぼす」


 空から血の雨が降ってきて、紙の上の文字を伝っていった。

 予言紙の新しい所有者になった花占い師は、太陽をすり潰したかのような赤い空を仰ぎ、口を開けて雨粒を舌に打たせてみたが、本当に血の味がした。プーの血を飲んだときと同じ味覚が、舌の上で重なった。

 何年か前、「大占祭」の占いの試合で勝利したプーは、占い師たちにくじを引かせて当たったものに自分の血を売った。血を買えなかった女たちは、血の味を占うしかなかった。花占い師は運良く当たりを引き当て、プーの血を買うことができた。血を飲み干すと、舌が過去と現在の狭間で彷徨い、自分がいつのプーの血を飲んでいるのか分からなくなった。テントで秘密を覆い隠すかのように、赤い占いの群れが雨となって落ちてくる。詩が読まれたために、予言が成就してしまったのか、「滴った血が大地を飲み込み、」占い族の者たちは、プーの死を経験しなかったことの罰のために、プーの血で溺れ死ぬことを覚悟したが、その人が死んだのか、血の雨は止み、誰もプーの死を忘れなかった。

 最後に村の者たちは占われたのだ。プーを見殺しにした者たちが、どのような末路を辿るのか、プーはまとめて占ったのだ。ただ、誰も自分の運命を読めなかった。プーが死んだ今となっては。

 数日後、花占い師は死んだ。取るに足らない弱い占い師の娘が死ぬことなど誰も占わなかった。彼女が咲かせた花は白い花も黄色い花もみな、赤い花に生まれ変わってしまった。屋内で咲かせた血の雨に濡れなかった花であったにもかかわらず。


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