第14話 その血は机の上に滴り落ちている

 占い族の村ができた当初、ブザーの妻のエリーはドラクロワを実の子のように育て、その後プーを産んだ。魚占い師を一日で死に至らしめた疫病の悪魔熱が、道草占い師を経由してエリーの体で発病し、エリーを長い間苦しめ、やがて死に至らしめた。エリーが自分の手でプーを抱いていられたのは、たったの三日だった。プーは七歳のときに、自分が生まれた三日後に母が死んだことを、父のブザーに聞かされた。プーは母の温もりを知っているドラクロワが羨ましいと言った。

「それでも実の母親じゃないしな」とドラクロワはぶっきら棒に言い捨てた。

 プーは自分の母親が邪険に扱われたと思い、いきなりドラクロワの石の顔を殴りつけた。プーがドラクロワを殴ったのは後にも先にもこのときだけだった。プーの右手から血が噴出し、流れ出す血が地面に滴り、母の顔を形作った。プーは初めて母の顔を見た。プーの流血占いが開花したのもこのときだった。柄にもなくドラクロワはプーに謝罪した。

 エリーはこの地に来れば、自分が死ぬことになることを自らの占いによって知っていた。エリーは夫の占いを優先するために黙っていた。

 ブザーはエリーの死を占えなかった。占っていれば、この地には来なかったのに、ドラクロワを見て見ぬふりをしたのに、愚かな自分の占いを捨てていたのに、と悔いた。死んだ者の未来を占ってみたが、運命の黒い影しか見えなかった。長く見ることを禁じられている暗い占いだった。今度では占いではなく、家族三人で幸せに暮らしている姿を想い描いた。ブザーの隣には「見知らぬ四人目の人間」がいた。そんなとき大抵不吉なことが起こる。占い師の間で伝わる言い伝えだった。元々は現実逃避しやすい占い師を現実に引き戻すために、「見知らぬ四人目の人間の話」は作られた。話を聞いて、精神にくさびを打ち込まれた占い師は、無意識のうちに、「見知らぬ四人目の人間」を心のまぶたの裏側に見てしまうのだ。「見知らぬ人間」は「三人目」でも「五人目」でもよかった。平均的な家族が三人ということだった。

 この話の真意を知らなかったブザーは、「見知らぬ四人目の人間」に幻想を切断され、もう自由に夢見ることも、まがい物の幸せに逃げることもできない、と嘆き苦しんだ。自分が生きる糧にしていた占いを責めた。

 エリーを埋葬した後、ブザーが一人で泣いているところを見ていたブンボローゾヴィッチは、この村のために妻と母を失った親子のために思わず泣き出しそうになったが、急いでその場を離れて闇の中で静かに泣いた。その後、ブンボローゾヴィッチとブザーとドラクロワとプーの間には、血よりも濃い結びつきができていた。

 その血は机の上に滴り落ちている。


 ドラクロワの運命を大きく変えたのは占い師ウラギョルだった。ドラクロワが占い族の村を捨てる少し前のことだった。ドラクロワとウラギョルは北の岩場まで来ていた。ウラギョルはドラクロワに、いつかお前の肉体の石化が進み、関節や筋肉、神経は石に閉ざされ、意識はあるが動けないただの石像になるだろう、と占った。

「それだけならまだ良いが、村の神殿に飾られた後、占い族が滅亡したときに、払えなかった租税のかたにお前は芸術品としてオゾン大公妃に買われ、邸内のサロンに花瓶を両脇に従えた台座に飾られ、そのお前を盗賊団『黒猫の舌』の女首領フィガロが盗もうとしたところに、オゾン大公妃が盗人のために仕掛けていた罠が作動し、お前の石の顔の額に嵌め込まれた爆弾が爆発し、お前はフィガロとともに粉々に破壊されるだろう。オゾン大公妃は、ドラクロワの石像が失われることよりも、むしろ愛すべき美しい爆弾によって、盗賊が死ぬことのほうを望んでいるのだ」

「俺の未来は、盗賊が爆死するための罠になることなのか……悪名高い盗賊の女首領フィガロと心中か……」ドラクロワは身震いした。

「オゾン大公邸のような広いところで暮らしてみたいが、体が自由に動かなくては意味がないしな」とドラクロワは言った。

「ドラクロワ。お前にふさわしい道を切り開いてやろう。俺と出会うことがお前にとっては最大の人生の転機なのだ。馬車を手に入れるのだ。村を捨てろ、お前を待っているものがいる」

「待て、俺はこの村を捨てはせんぞ。仮にも占い族の族長。一族を守るのが、族長の務め。プーもいる。プーを見捨てるわけにはいかぬ」


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