第11話 絵の中の猫に食べられてしまった
昼を大分過ぎた頃、占い族の村に戻ったプーとブンボローゾヴィッチは、村の鐘係「鐸魔」に命じて櫓の占鐘を鳴らさせた。何事かと村人たちが騒ぎ声をあげながら住居から出てきた。広場の丘に多くの占い師が一堂に会した。年に一度に行う占い族の祭り「大占祭」のような規模と熱気で、猫を探すための会議と合同占いを始めた。
「俺たち、前もこんなことしてなかったかなぁ?」
「気のせいだろ」
族長のドラクロワは広場の神殿石の手前、皆の者がよく見える場所に椅子を置き、背もたれに持たせかけるようにして、くだんの白猫の肖像画を立てかけた。
「これが大公妃の飼う猫だ。行方不明になっている。皆の占いで猫を見つけてやってくれ。でなければ、ブザーは餓死して死ぬ」
「見つけたぞ。猫はさっきから椅子の上に座っているではないか」
「これは猫の絵だ。絵も知らないのか?」
皆が大声で笑い、一番に発言した者は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせた。
「俺もさっきプーに渡されて、初めて絵という物を目にしたのだがな。気を取り直して、それでは皆のもの、各自、占いを始めよ」
槍を手にしたドラクロワが怒鳴ると同時に、壷を片手に絵に向かって突進してきた者がいた。その者が疾走する前方にいた卵のような体型の卵占い師は、走ってきた男に肩をぶつけられ、手に持っていた生卵を地面に落として割ってしまった。壷割り占い師は何も気付いてない様子で前に出て、素早く椅子の上の絵に壷を被せた。
「絵が見えぬ」静かな苦情が寄せられた。
壷占い師は深く腰を落とし、右手で手刀の構えを取り、人差し指がわに気合いの息を吹きかけ、壷の縁目掛けて一気に右手を振り落とした。
壷は割れなかった。ドラクロワはかわりに石の拳骨であっさりと壷を割った。
「息は小指がわに吹きかけるべきだな」とドラクロワは忠告した。
族長が割ってしまっては、効果はないと愚痴をぶつくさ言い、手を腫らせた壷割り占い師は、割れた壷の破片の掃除をドラクロワに命じられた。
「集めた壷のかけらは、俺がもらうから、もう下がっていいぞ」
「族長、まさか壷のかけらを食べるんじゃないでしょうね?」
そう呟くと、壷占い師はかわりの壷を取りに彼の自宅の壷置き場のほうへと走っていった。入れ替わりに新しい卵を取りに鶏小屋から走って戻ってきた目の大きな卵占い師と再びぶつかり、哀れ卵占い師の卵はまた割れてしまった。いっそのこと壷割り占い師は卵占い師に転職したほうがよかった。ただし卵占い師の占いは、割って占うようなものではなく、卵が倒れた向きを調べるという類の占いだった。だから卵は一個あれば充分のはずだった。卵の殻のように白い肌で、髪の毛も白い、服も白い卵占い師は、壷割り占い師の後を追いかけていった。卵占い師は持ってくる卵の数を、占いで前もって調べるべきだった。
仮に今起こった出来事が卵占い師の占いだったとしよう。
卵は二個割れた。卵は前もって三個持ってくる。外的条件として壷割り占い師の体当たりは避けられないものとする。壷割り占い師が、絵の前に出て行ったときの体当たりで、卵が一個、運が悪くて三個とも全部割れる。鶏小屋に戻って、後一回、壷割り占い師が自分の家に戻ってくるときの体当たりで、一個割れるから、予備として卵を二個持ってくる。二回目に体当たりを受けたときに、卵が一個、運が悪くて二個全部割れる。結果として、卵は五個も割れてしまう上に、もう一回卵を取りに鶏小屋まで走ることになる。なるほど、卵占い師は事前に卵が割れることを占い、さらに卵を余分に持っていった場合も占ったかもしれない。占って熟考した末に、卵の破壊を最小限に食い止めるために、一個しか持っていかなかったのかもしれない。走り回る距離は変わらないのだから。
卵占い師は、「卵を二個も割った壷割り占い師は、鶏の鳴き声を聴けなくなり、朝食に卵を食べることは、二度となくなればいいのに」とずっと壷割り占い師を恨んでいたので、猫がどこにいるかは占わずに、闇雲に卵を転がしているだけで終わってしまった。後に卵占い師の呪いは、現実のものとなった。
「この絵を書いた義眼の画家を探したほうが早いのでは?」
金貨占い師は、一枚の金貨を空中に投げ、金貨の光が乱れ飛ぶ中に、オゾン大公国の金貨の流通経路を見て、大公妃から報酬を受け取った義眼画家を追跡した。
義眼の画家は絵の中の猫にその存在を食べられてしまったのか、行方は杳として見つからなかった。
「今日は蟻の巣が見つからない。占いは終わりだ」
蟻の巣占い師は家に帰って眠ってしまった。
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