タイムトラベルの矛盾に関する一考察

いわのふ

タイムトラベルの矛盾に関する一考察

 タイムトラベルものにつきものの「タイムパラドックス」なる矛盾、ほとんどの小説や漫画において解決されず、それを抱えたまま物語化されている。


 例えば、ドラえもんにおけるタイムトラベルにおいて、ドラえもんはしょっちゅう「歴史を変えることは許されない」などと言うが、歴史が一つのライン上にある一つの世界として現在とつながっているのであれば、タイムトラベルすること自体、歴史に介入することに他ならない。


 たとえ、タイムトラベルした人物が何もしなかった、あるいは本人は自分の祖先を殺したりしなかったとしても。なぜなら、世の中、時間発展する複数の粒子からなる系であり、わずかな干渉によってもその将来が大きく変わる可能性があるからだ。


 ある時刻における、ごくわずかな相違が将来の結果に甚大な影響を与え得ることが明確に発見されたのは60年代である。気象予報を専門とする学者がごくわずかな初期値の相違がとんでもない結果の相違となって予報の結果に影響を与えることを見出したことによる。現在ではカオス理論とか、複雑系理論などと呼ばれて研究の対象である。わかりやすく言い換えた言葉として「バタフライ効果」なるものが知られており、南洋のどこかで蝶が羽ばたいたわずかな摂動が、大洋での嵐を引き起こすという極端な例を引き合いにして説明される。


 また、時間そのものが、熱力学と深く関係しているようで、現在のところ時間が一方的に増える理由を説明できる学問はほぼ他にない。ほぼ他にない、といったのは量子力学でもそのようなことを考えている人たちがいるからで、私がその辺りをよく知らないからである。ただ、弱い相互作用の対称性の破れを持ち出すのなら、局所的な問題であって時間の矢が一方向に向いていることを説明するものではない。


 大雑把にいって単純な粒子同士の素過程を扱う理論では時間を反転したとしても理論が成り立ってしまい、時間の一方的な流れを説明できない。例えば、ニュートン力学では投げたボールは時間を反転させても同じ軌道を通って逆の方向に戻るだけである。一方で、熱力学の洗練された形式である統計力学では多数の粒子の運動の結果が時間となって表れている。現在の統計力学は量子力学を取り込んでより洗練されたものになっている。これにより化学反応の起こり易さ、不可逆性を数式で示すことさえできる。


 以上から多数の粒子複合体であるドラえもんが「歴史を変えることは許されない」と言うことは「タイムトラベルこそ許されない」と同義になってしまう。


 もし、歴史が複数に分岐するというのなら話はまた別で、過去に戻ったことによる影響は元あった世界とは別の経緯をたどって別の世界を形作ることで現れる。量子力学では多世界解釈という波動関数の解釈があるが、これも観測、あるいは何かの行動の相違が複数の世界を生み出すことを示唆している。


 その二 「ドラえもんタイムふろしき」方式のタイムトラベルはSFではない


 「ドラえもん」形式、これは非常に多い。軽いものでは「ドラえもん」はじめ、多くのタイムマシンを扱ったアニメ類はこの矛盾を抱えつつも無視を決め込んでいる。何も無視を決め込んでいるのは、このような軽い物語だけではない。有名どころではG.ベンフォードの「タイムスケープ」もこの矛盾を内包しているが、著者はそれを黙殺している。


 まともに切り込んだのはJ.P.ホーガンであり、「未来からのホットライン」など名作が多数ある。ホーガンはかなりまともに向き合ってるわけで、未来からのホットラインでは未来からの通信によって過去に影響を与えると、その未来に続く時間線が消えてしまう、という仮定を持ち込んでいる。矛盾はこれで消えるが、なんとも悲しい話になってしまうわけで、折角世界を救おうとした未来の人たちは自分たちを消し去ってしまうことになる。J.P.ホーガンの「量子宇宙干渉機」にもなると、多世界解釈をまともに持ち込んで議論したりしはじめるものだから、日本ではあまり売れていない。要するに売れる小説にするのだったら「ドラえもん」形式を採用して、矛盾にはだんまりを決め込むのが良いわけだ。


 だんまり、を決め込む以上は物語が面白くなければいけないわけで、肝心の物語がつまらないものだったらどうしようもない。だから、SFというよりごく普通の小説であり、話の都合上タイムトラベルを持ち込んでいるに過ぎない。


 その他


 最近の論文を見たりしていたところ、ミューオン触媒核融合ではヘリウムに捕獲される過程が触媒核融合反応の律速過程ではないと主張するものもあり、またヘリウムを積極的に排除することが可能である、という主張もある。主張していて論文になっている以上は根拠があるはずで、そいつをうまいこと利用してつじつまを合わせたりできないか、などと思ったりしている。そんなことしなくとも、ホーガン並みの腕っぷしがあれば、もっと面白いことが書けるのに。


 とは、言ってもこんな理屈で武装して、所謂正しいと感ずるところを書いたとして、読む人が増えると私は思ってはいない。かなり、自己満足的ではある。

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