File19:臭い

 その後、別の場所に移っては違うことをし、終わればまた別の場所へを繰り返して今日は終わった。

 病み上がりの人間にさせる仕事量じゃなかったぞ。

 労基がこの国にあれば訴えられたんだがなぁ。

 しかし、対価として得るものは多かった。

 今日一日だけでかなりの情報が集まり、見回りの配置や武器の保管場所や食料の場所もわかった。

 これだけの情報があればバレずに出ることも容易い。

 実行するなら今日の深夜、まだ顔を覚えられていないうちがいい。

 必要な物だけを盗って出よう。

 思い立ったら即行動、俺は早速戦闘用の服を着こんで外を確認する。

 夜は外の見回りに人数が多く割り当てられており、中は監視網が薄い。

 準備までの時間はそうかからないだろう。

 俺は素早く武器が保管されている場所まで行き、最低限の装備としてヒートセイバーとハンドガン、マガジンを三つ、防護服を持ち去る。

 そして、必要な食料と水を近くあった軍用リュックに詰め込む。

 これで二、三日は問題ないだろう。

 それらを身に着ける、あるいは持ち、足早に前に進軍した道を進む。

 ある程度進んだところで振り返る、追っ手はきていない、脱出成功だ。

 予想以上のゆるさに呆れもするし、ラッキーとも思う。

 これからほぼ休まず進んで追いつかなければならない。

 午前のうちにアオイたちがどこまで進んだかは聞いてある。

 追いつくには少し時間がかかるだろうし、まだ機人がそこらにいる可能性も考えればよりかかる。

 早くて四日、それではもうむこうは目的地のダラスまで着いているはずだ。

 走るしか、選択肢はなさそうだ。

 俺はできるだけ傾斜の少なく、見つかりにくい道を選んで進む。

 基地近くならまだいいが、離れた場所なら機人が数体いるはずだ。

 思いたくはないけど、アオイたちが取り残したやつがいてもおかしくないからな。

 俺の読みは正しかったのか、数時間でビルを倒壊させた場所までは難なく来ることができた。

 ここからは俺も知らない道、あいつらと全く同じ道を進むのは無理だろう。

 極力あいつらが通ったであろう道を予測して選び、進むしかない。

 もし違うなら機人と出会わないことを祈るしかない。

 俺は目的地までの地図を頼りに休憩を挟みつつ進んでいく。

 途中、機人を見かけることはあったが難なくやり過ごすことはできた。

 しかし、予測もしない事態が待っていた。



 ◇   ◇



 基地から脱出して二日目の朝、曇り空だが雨は降りそうにない。

 近くの家屋の壊れかけのベットで夜を過ごしたせいか、背中が痛い。

 俺は立ち上がり、荷物を背負いすぐさま歩き出す。

 現在はダラスまでの道のり目印となる街、サンアントニオ。

 ここは食料や水が多く、尽きそうになっていた俺は助かった。

 しかし、機人の姿があまりないのは妙だ。

 仲間がいた痕跡らしいものさえない。

 正直、おかしい。

 だが、いちいち止まってもいられないので進む。

 これは気鬱、そうにちがいない。

 俺は気にせず進もうとするが、生臭い香りが俺の歩みを止めた。

 はっきり言うと異臭、それは近くに建てられた病院から漂ってきていた。

 行かない方がいい、本能はそう忠告する。

 しかし、好奇心が本能を食らいつくしたのか俺は導かれるように病院へと入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フランチェスカ 鈴蘭 @kou_S_sran

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ