File18:約束

 その後、着々と作業は進み二十分もかからないうちに捌ききれた。

 土地勘があるロムが手伝ってくれてよかった、俺だけなら二倍くらいかかってそうだし。

 今は炊事部のテーブル席のひとつで休憩中。

「いやぁ、あれだけあったのにもう終了か。これもロムちゃんのおかげだな」

「そうかな、えへへ……」

 彼女は恥ずかしそうに頬を赤くするが、どこか違和感を感じる。

 具体的に表すなら、物足りなさだろうか。

「どうかした?」

「えっ、べ、別に何も」

 と、彼女は言うが視線はいずこ。

「本当かな? 別に話したくないならいいけど」

「……」

 彼女は少し考えてから口を開いた。

「私、力になれてるのか不安なんだ。ここにいるべきじゃないのに、おじさんに無理言って連れてきてもらってるから、迷惑かけてないか心配で」

「大丈夫じゃない? それに君の仕事は皆に料理を作ったりしてあげることだ」

 自分なりにフォローしたつもりだったが、彼女は納得していないらしい。

「たしかに私はこどもで役割もお料理……でも、他の女の人はみんな戦ってる! 私は、役割に甘えたくない!」

「大人だね、ロムちゃんは」

 子供の方が大人よりいろいろ考えているなんて言うが、この子はその具現化だな。

「私はもっとみんなの役に立ちたい! そのためなら拳銃だって……」

「ストップ」

 俺は続けようとする彼女を止める。

 彼女はムッとした表情で俺を睨むように見る。

「君は銃なんて持っちゃだめだ」

「それは子供だから?」

「いや、もっと単純なことだよ」

「……それは、なに?」

「銃ってのはね、簡単に手が汚れる代物だ。簡単に言っていいことじゃないよ」

「それはそうかもしれないけど……私は……」

 どうやら、ひどく葛藤しているらしい。

「それに、君はもう十分に役に立ってるぞ」

「え?」

「今日色んな所を周ったろ? そこで皆はどんな表情だった?」

「表情って、別にいつも通りだったけど……」

「いつも嬉しそうにしているって事かな?」

「うん」

 彼女は特に悩むことなく言うが、これは凄いことだ。

 各所を周っててわかったことがある。

 彼女はこの場所においてアイドル的存在であるということだ。

 行った全ての場所で彼女はお菓子をもらい、可愛がられていた。

 義勇軍とはいえ、新人は軍人という称号が重しになって食事すら喉に通らない奴もいるとマスターに聞いたことがある。

 しかし、それに反して皆明るく、無理してそう扮しているように見えない。

 むしろ、アメリカが戻ったらどこに住居を建てるか、今回志願した際に出た金をどうやって使おうか、なんてことを考えているくらい余裕だった。

「君は皆の支えになれてる。だからそのままでいいんだよ」

「……」

「支える人がいるから頑張れる。だから、君にはそのままでいてほしい」

 支えがあれば精神的にもかなり楽になる。

 それに、守るためなら強くもなれる。

「それでいいのかな?」

「それでいい。それじゃ、俺はそろそろ別の作業に行かなきゃ」

 俺は立ち上がり、コレットさんの元まで行こうとする。

「待って」

 彼女に呼び止められ、振り返る。

「約束」

「へ?」

「私はこのままだし無理しない。だから、お兄さんも無理しない。約束して」

 理にかなってない気がするが、この際関係ないだろう。

「わかった、約束する。君は無理しないし、俺も無理はしない」

「これでよし! 絶対だからね!」

「わかってるよ」

 俺はそのまま立ち去った。

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