File17:子と侮るなかれ
流されるように配達をやらされることになったわけだが、好都合と言える。
ここには一日ほどしかいなかったから、基地内を周るこの仕事は覚えるにはうってつけだ。
ロムちゃんがいるからメモを取ったりできないけど、そこまで問題ないだろう。
それに、書くべきことは目を盗んでしまえばいい。
子供だからガードも甘いはずだ。
ちゃっちゃと終わらせなきゃな。
「さて、場所は……司令部、看護部、情報部、兵器管理部、この四つか。どれからいけばいいんだ?」
渡されたメモを見るも、略図などは書かれてなく、効率的な周り方がわからない。
普通なら着いた日に案内してくれるが、俺たちは夜中到着だったためそんな時間もなかった。
「それならロムに任せて」
「ロムちゃん知ってるの?」
「うん。 おじさんによく付き添ってたからわかるよ」
少し情けない気もするが、あまり時間をかけすぎると言及されそうだしここは頼るしかない。
「じゃあ、物は持つから案内お願いしていい?」
「うん、任せて」
木箱を抱え、ロムちゃんの後に続く。
子供に先導される十八歳の男、なかなかに珍しい絵図らだと自分でも思う。
不謹慎だが、幸いにもここにいるのは仕事に夢中で席から立てない人間か怪我で立てない人間のどちらかだ。
人に見られなくてよかったよ、マジで。
移動すること五分、最初に到着したのは看護部。
ここは傷を負った人間が運び込まれ、治るまでここで面倒をみられる。
最近の技術なら必要ないと言える場所だが、今回はフランが絡んでいるため話は違ってくる。
フランは少量ならそこまで人体に影響しないものの、多量に浴びるとウランと同じ影響が出る。
ウランの人体被害を抑えたものであって、完全に危険性は消しきれていない。
だからゆっくりと時間をかけて直す必要がある。
この前の戦闘で被弾したら間違いなくここ送りになる。
満員とまではいかなが、多くの同僚がベットで横になっており、見るのは辛い。
ロムちゃんも参ってるだろうな、と思い顔を伺うが、さほど変わらない表情だ。
「ロムちゃん、平気なのか?」
「うん。慣れてる、から」
見た目、年齢、それらを凌駕する精神の強さだ。
慣れてる、なんて口にできるとは、恐ろしい子。
「お、レーションがきたか」
この場所では比較的元気な男がこちらにやってくる。
見た感じ、医療関係者ではなさそうだ。
「ご苦労さん。何個入り?」
「えっと、三十から四十個はあります」
「そうか、少し余るな」
彼は少し悩ましそうな顔になる。
「人数より多かったでしょうか?」
「いや、まだ食べられる状況にあるやつが二十五人ほどでな。まだ数人目覚めていない状態だ」
「あっ……」
俺は浴びなかったし、前の方にいたため後ろの状況を知らなかった。
そう、本来ならこの光景だったんだ。
俺も、同じような光景を見て、恐怖心が自分めがけて飛び、形あるものが俺の体を撃ち抜き、目覚めなかったかもしれないんだ。
暗い中を彷徨い続ける、あるいは。
驕るな、自身に警告の釘が打ちつけられた。
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
彼の声で現実に戻される。
底から抜け出した安心感、それを強く感じた。
できるだけ自然に装う。
「大丈夫です。とりあえず、これ置いときますね」
「ああ、頼む。余った分はコレットさんのところまで届けておこう」
「わかりました。そろそろ行こうか、ロムちゃん」
一緒にその場から立ち去ろうとする、が。
「あ、ちょっと待ってくれ。ロムちゃん」
彼に呼び止められ、ロムちゃんに呼び出しがかかる。
「今日もありがとう。はい、これ」
そう言って彼はキャラメルを二個取り出し、手渡す。
ロムちゃんは目を光らせ、受け取る。
「ありがとう、お兄さん!」
彼女はそう言うとトテトテと戻ってくる。
あげた彼と笑顔で別れる。
こんなに喜んでくれたら笑顔にならないわけもないか。
女の子ならなおの事。
「行って戻っての繰り返し、結構腕にくるな」
「大丈夫? 代わろうか?」
「いや、大丈夫! 問題ない!」
この子、子供だからとかいって侮ってはいけないやつだ。
見た目は子供、中身は大人のそれ、頼もしい子だ。
「早く戻ろ!」
「了解」
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