#3 レオン・マクシミリアンの召喚魔法
実験場
昨日の今日、バールは目の下に薄いクマを作っていた。
(どうしてオレはあの時、ちゃんと見てなかったんだろう。せっかく魔法を、本物の魔法を目にする機会だったのに、なんで死霊にとり殺されかけて意識もうろうとしてたり、得体の知れない気配にくず折れて苦痛に耐えるのでせいいっぱいになっちゃったんだろう、あげくに二回とも気を失った!)
くちおしかったし、後悔をしていた。
(昨日みたいな貴重な瞬間はもうめぐって来ないかもしれないのに、オレは、オレは、自分が情けない……)
師匠と弟子は待ち合わせ場所で落ち合ったあと、マリテュスの広大な敷地を歩いていた。
マクシミリアンに指定された基礎課程の授業を午前中休み、バールは昼過ぎから出仕している。
はっきり言って体調は良くなかった。体が丈夫なことが数少ない取り柄だというのに、形無しだ。
心が疲れていた。
物理的に精神を攻撃されたのは初めてで、回復の仕方がわからないまま、一夜が明けた。
師匠はいつも通りで、予定を変えず実技を行うと言い、先に立って歩き出した。
今日の演習には普段とは違う教室を別に押さえたので、日取りを変更するのは難しいらしい。
やがて二人が歩く道は天井の高い石造りの回廊になり、外に面した回廊から深い森の姿が映り始めた。
まだ疲れの見えるバールに合わせ、ダラダラと歩きながら、話題といえば昨日のこと。
そうして無念に裏打ちされた不満をバールはマクシミリアンに向かって口にした。
「オレは師匠に命を預けたりしません」
言いにくそうに告げる。
「人の返事を聞く気がないなら、いちいちオレに断らず命令すればいいんですよ」
不機嫌そうに言われても、バールが何を怒っているのか、マクシミリアンの方はさっぱりわからなかった。
妙に細やかなのか、なんなのか。
昨夜、昏倒する前に見聞きしたことについては触れて来ない。
「それは私を信用してないって言いたいの? ちょっと傷つくわね。でもまぁ、仕方ないわよね」
講師という肩書き以外、素性は明かしていないのだ。バールが召喚術の講義を受けるようになって、まだ三週間も経っていない。
でも、とマクシミリアンは言う。
「命令はしないわよ?。あーしろこーしろとは言うけど、
「召喚術の講義じゃなくて、昨日のことです、師匠」
いつの間にか脱線した。
「えーと、なんだっけ?」
「師匠はオレのことを信用してないんです」
水を打ったような静寂に、森の中の鳥の羽ばたきが聞こえた気がする。
意外な言葉に、滅多に止まらない思考が一瞬固まった。
(なんだって、あんたのどこを信用しろっていうのよっっ!?)
信じられない思いで見やると、見た目より実は若い十五歳は、真面目に心を痛めているようだった。
(ツンデレなの?)
いや、これは。不器用なのだろうと思い直す。
気遣われたことが悔しいと思うくらいには、慕われているらしいと、マクシミリアンは考えた。
……違うかもしれないが、あたりをつけなければ、会話が進まない。
(かわいくないけどね)
「バール、私は今は師匠だけど、あんたのことは一人の召喚術士として、敬意を払っていくつもりよ」
初めてまともに名前を呼ばれ、バールは顔を上げる。
「だから、信用がほしいなんて、甘えたことを言わずに、まずは手にできる形あるものを探しなさい」
「例えば?」
「決まっているでしょう––––––魔法よ」
魔法をこの手に。
二人が辿り着いた先は丸い天蓋を持つ、闘技場によく似た空間だった。
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