#2 死霊騒ぎ
図書塔
その日の講義が終わった後、バールは図書塔に向かった。
本体は地下にあり塔の入口だけが講義塔の1階にあった。バールは入口で管理官に目的を問われた。
「何期目だ?」
「この前入学したばかりです。図書塔の利用も初めてで」
「……その本は古文書の年代だから深いぞ。一人で行くのは感心できんな」
「でも、師匠は閲覧していいと言っていました。オレは行かなけりゃならないんです。苦情は師匠に言って下さい」
「そうだな、許可したのは誰だ?」
「レオン・マクシミリアンです」
「!……お前マックスの弟子か。まだ見つからないんだってな」
「? はい」
師匠はマックスと呼ばれてるのかと心に書き付ける。
「最後に見たのは俺なんだよ」
話の腰を折るのも悪い気がして、バールはそうなんですかと返した。
(もう通ってもいいのかな、許可証とかもらわないと入れないのかな)
「博士にも話したが、ネリーは仕事が早いんだ。最短ルートで行って最短で帰って来るような奴だ」
「ネリーさんが図書塔で消えた……出入口はここだけですよね。あの、入るのに気をつけた方がいいことってありますか」
「気を付けてたろうさネリーは。だから言ったろ
「じゃあ、その本を回収すればいいんですね」
「死霊術の古文書年代の棚にある。ちょうど良かったな、召喚術のひとつ先だ」
「はい?」
「お前マックスに本の回収は頼まれてないっていうのか?」
「ええと、オレは師匠の指示に従うだけです」
「そうか。あいつは問題ないって言ってたが、魔力を吸う本だからな、気を付けろよ」
図書塔の管理官はそう言って、バールに許可証と照明代わりの魔晶石が入った
ちょっと状況を整理しよう。
(オレは召喚術士の失敗録を読みに来たんだよな?)
図書塔の本の構成は三つに分かれている。年代別に分かれ、深くなるほど時代が古かった。
バールは中層階に向かって、本棚でできた回廊を下っていた。
(本棚の場所はわかってるけど、塔についての注意事項ほとんど聞けなかったな)
本棚には整理番号があり、回廊の壁や床は取り付けられた魔晶石で明るかった。
(みんなでネリーさんを探してるんだな。どうして師匠が調べてるんだろう。オレの講義をしてる場合じゃないんじゃないか?)
まだ浅い付き合いの師について考えてみる。
(師匠が問題ないって言ったってことは、原因はその魔道書とは別にあるってことか。だったらオレ、この状況まずくないか?)
気付いた時には中層階まで下って来ていた。
急に天井が低くなり、もともと回廊は細いため圧迫感がある。
(うーん、誰ともすれ違ってない。あの感じ図書塔に入れる人を選んでたもんなー。
更に進んで行く。召喚術の項目は中層の中でも深い所にあった。
(別の理由があるのかな。その本を取りに来ていなくなったとか、その近くでいなくなった確証があるとか?)
辺りが段々と暗くなって来ているように感じて、バールは
なんとなく息苦しさを覚える。ここで足を止めたら引き返してしまいそうだった。
(葡萄酒の製造所みたいに暗いな。見通しが悪くて遮光野菜の苗床みたいに狭いし。閉所恐怖症になりそうだ)
バールは自覚症状を指摘しながら、精神的な限界が近いのを感じていた。外が見たい衝動に駆られる。ここに窓があっても見えるのは土だけだ。早く地上に出たい。
その時、目当ての棚が見つかった。背表紙が付いているようなので、よく見るため
広がるにつれ弱くなる光の輪の片隅で音がした。
カツン
バールは首だけを音がした方へ向けた。
長い本棚の中央近く、照明と照明の間に闇がわだかまっている。
コツン
闇に向けて
小さな人がいた。うずくまっているように思えたそれは、しゃがんで床に手を伸ばしていた。
コツッと置かれた硬い石が音を立てた。
白っぽく光る髪が揺れて、赤い瞳にバールが映る。
「みつかっちゃった」
と言って少女が笑った。
バールは叫び声を上げた。
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