召喚(契約召喚 ①〜④)

 召喚魔法の講義が続いている。


「もう一系統は契約召喚。異世界と現世を繋げて行うものよ。ここでは異界別ではなく、発動する魔法の特性で4つに大別しています。もし、あんたが召喚術士で身を立てていくつもりなら、召喚魔法の特性を使い分けて、どんな場面でも、有効な手立てを打てる必要があるわ」

 そこまで考えてくれてるんだ、とバールは素直に思った。

「でも困ったわね、言って伝わるかしら。見た方が早いのよね」

「見たいです、師匠っっ」

「それもなんか腹立たしいわー」

「なんでですか!すごい技を見た方が、オレのやる気が出ると思います!」

「そうね、正直かわいくない」

「あの、いや、ごねる意味がわからないんですけど、お金払ったら見せてくれるようなものじゃないでしょう?」

 マクシミリアンは怒るというより呆れた。

「なんなのその発想」

「すみません、うちの実家が港の大店なもので」

 染み付いた商魂は抜けない。


「仕方ないから、仕方なくね明日見せるわ。今日は着目する点を説明しておきます」

 マクシミリアンは古代語を板書した。

「契約召喚と空間転移との違いは、対象物を魔法陣まで誘導しなくていい点です。はい、読み上げて」

「ええと、①〈強制召喚〉」

「一方的な契約によって対象物が召喚されるわ。特徴は対象物が生物ということ。現世に存在できる時間に制限があり、制限内でも対象物の一部破壊、術者の死亡によって、魔法が解除され帰還する召喚魔法」

 次の文字が黒板に書かれた。

「……②〈古き契約〉」

「古代魔法文明が設定した契約によって対象物が召喚されます。特徴は対象物がごく限定された物体ということ。現世に存在できる時間に制限があるものと、ないものがあり、後者の場合、帰還条件はないわ」

「制限時間とか帰還とか、どうして勝手に帰っちゃうんですか。魔力が続かないせいですか」

「魔力の持続が必要ということは、そもそも現世に存在することに無理があるということなのね。根本的に異界は規律が違うから、繋げた世界がすぐにずれてしまって、存在が不安定になるのだと考えられます」

「んー、隕石落下メテオストライクは帰還しない〈古き契約〉ですか」

「そう。隕石は星界という異界に存在します。一定の範囲の宙空域を魔法の力場が働くように変えて、そこに発動の度に隕石を定数通過させる魔法陣が設定されてるようね」

 まるで見てきたように話すんだな、とバールは師の講釈を聞きながら感心していた。

「召喚魔法に限らず、古代魔法の優れている点は、〈力ある言葉〉を唱えることで魔法が発動することよ。一方で古代魔法は、文献が発見されない限り増えないという事情を抱えているわ」

 マクシミリアンは一度言葉を切って、古代文字を記す。

「次」

「③〈共鳴召喚〉」

「新旧の召喚術士が異界との交流の果てに生み出した、契約よ。特徴は一方的な召喚ではなく、術者の呼びかけで発動し、呼びかけがうまくいかなければ失敗すること」

「失敗するとどうなるんですか」

「何も起こらないだけよ、そこそこ疲れるわ。共鳴召喚が可能な世界は妖精界と精霊界に限られています。妖精界から現出するのが〈幻獣召喚〉、精霊界の方を〈事象召喚〉というわ。精霊魔法と違う点は明日見せます」

 マクシミリアンは言葉を止めてバールを見やった。

「覚えることが多いでしょう」

「大変なことになってきてます……」

 筆記を禁止されたバールの頭は混乱していた。

「違いを整理する為に体系化してるだけなのよ。でもね、よく聞きなさい、このわずかな現出時間の差や、契約の有効性が外の世界では……どこでも同じね。注意の甘さが命取りにもなるし、命を守ることにもなるわ」

「はい」

「じゃあ、最後に」

「まだあるんですかっっ」

 マクシミリアンは書いた文字を自ら読み上げた。

「④〈血の盟約〉。これについての説明は省きます。明日も見せません。ただこの名前は記憶に刻んでおくように」

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