オネエさん
その教室には、バールを含めて20人くらいの生徒しかいなかった。
教壇に立っているのは、頭頂部だけが禿げ上がった、年配の魔術士。頭頂部を囲う長い髪が、ゆるりと後ろでまとめられていた。
筋力がないのか、しなを作るような姿勢で教壇に片腕をついた講師は、生徒たちをだるそうに見渡すと口を開いた。
「あんた達どーせやる気ないでしょ」
まだ何の自己紹介もしていないところからの、最初の一言だった。
「ひとつくらい知ってないと魔術士名乗れないと思ってるんでしょ、塔の魔術士たちの手が余ってなくて、空いてるからってここ選んだだけなんでしょ」
(これはあてこすりなのかな、それとも愚痴なのかな)
誰かがそこで手を挙げた。
「違います。貴方にご教授頂きたくて来たのです」
(勇気あるなあー)
定規を背中にでも入れたように真っ直ぐな姿勢と視線で講師に立ち向かう青年は、気品のある顔立ちをしていた。存在感が一人だけ濃い。
「あのね子爵、私は講義についてこれない者も嫌いだけれど、本気でやる気がない人はもっと嫌いなの」
「私は本気で貴方から」
「召喚術なめんじゃないわよ」
それは静かな殺気だった。
バールはいたたまれなくなって、帰りたい気分になった。
(なんでこの人こんなに怒ってるんだろう)
「召喚魔法を使いたいだけなら、基礎の第三段階を習得した後に魔法書を読みなさい。呪文と効果範囲が書いてあるから、書いてある通りにやれば使えます」
恐れを知らない子爵が質問する。
「《
「そうです」
「どの魔法書が最適ですか」
「アルセデスによる『新訂深淵の神々』」
「あ、ありがとうございますっ」
「用が済んだのなら、出て行っていいわよ」
さすがに子爵はその場に留まった。
「わかったようね。召喚魔法は決まった手順に従って決められた魔法陣を描くことで発動する。必要なのは過不足のない魔力、正確さ」
講師はとどめのように言葉を継いだ。
「つまり魔術士になることが大前提。魔術士になる授業なら他でやんなさい。じゃなかったら、あんた達名前だけで授業選んだでしょ!」
反省なさいとばかりに、レオン・マクシミリアンは声を響かせた。
逃げるに逃げられない生徒たちは動けなかった。
「仕方ないわね、授業をします。概要を説明するから興味のある人だけ明日も来なさいね」
(名前負けしてること気にしてたのかな)
とバールは思った。
そうして、次の日から一人また一人と生徒の数は減っていった。
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