第7話 闇の中に巣食うもの
岩肌剥き出しの壁から生えた蔦が、カーテンのように連なっている。
天井には、草。こんな場所にまで力強く生える雑草は本当に生命力が強いと感心したくなるほどだ。
内部は真っ暗で、カームが持つ杖に点された魔法の光が照らす範囲だけが視界の範囲となった。
これでは、遠くにいるかもしれない魔物の存在は発見することができそうにない。
魔物の方からは光が近付いてくるので何かがいるということがすぐに分かる。嫌な状況だ。
だが、仕方ない。それも含めてダンジョン探索というものは危険が伴うものなのだから。
足音を殺して、2人は通路を進んでいった。
目指すは、ダンジョンの最下層。
古代の遺物が眠っているという場所である。
カームは進むべき道が分かっているのか、枝分かれしている道を迷うことなく選んで先行していく。
このまま、何事もなく目的地に到着するのかと思った矢先──
じゃり、と砂粒を踏む音を耳にして、2人は同時に足を止めた。
カームは杖の先端を前方に向けた。
闇の中に、ぼんやりと丸いシルエットが浮かび上がる。
これが人の形をしていたなら冒険者かと訝ったかもしれないが、それとは明らかに違う。
冒険者でないのなら、何がいるのかは決まったようなものだ。
「……何かいますね」
「俺が行きます」
ジャドはカームの前に出て、右手を前方に向けて翳した。
「アイシクルランス!」
虚空に生まれる氷の槍。
それは宙をまっすぐに飛んでいき、丸いシルエットを串刺しにした。
「ピイィィィッ」
甲高い笛の音のような悲鳴が起きる。
カームが近付いてそこを照らすと、頭を貫かれて息絶えた巨大な芋虫の死骸が通路の中央に転がっていた。
「……フォレストキャタピラーですね」
フォレストキャタピラーとは、主に森林に生息する芋虫の魔物だ。
食欲旺盛な生き物で、森の木だけではなく小動物を餌にすることもある。人間が襲われて食われることも、稀にだがある。好戦的ではない魔物ではあるが、注意が必要な存在だ。
「普通は森に生息している魔物なんですが、此処にも植物があるので入り込んだんでしょうね」
「……これって確か、群れで生息してる魔物ですよね?」
ジャドは注意深く辺りの様子を探った。
他にも魔物がいるのではないかと訝っているのだ。
そうですね、とカームは頷いた。
「まだいる可能性はありますね。注意して進んでいきましょう」
フォレストキャタピラーの死骸をよけて、奥へと進んでいく。
──幸い、此処にいる魔物は今の1匹だけだった。
曲がり角を曲がり、十字路をまっすぐに抜けて、坂道を下りて、二手に分かれている道を右に進んでいき。
ざわざわ、と葉が擦れ合う音を耳にしたジャドが、立ち止まった。
「止まって下さい」
肩を掴んでカームを引き止める。
「います。それも1匹だけじゃない」
腰に下げていた剣を取り、構えながら前に出る。
カームは杖を腰のベルトに差し、右手を前方に翳した。
「ライティング」
煌々とした白い光が掌から生まれ、天井に張り付いた。
闇に覆われていた辺り一体を白く照らし出す。
その下にあったのは──
「……これは」
「流石に数が多いですね。此処を突破するのは少々骨が折れそうです」
彼らの行く手にひしめいていたのは、巨大な花に蔓が生えたような動く植物の群れだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます