第6話 いざ、出立

 その日の朝は、非の打ち所がないほどによく晴れた穏やかな天候だった。

 冒険者ギルドの前で待つジャドの元に、笑顔のカームが姿を現した。

 服装は同じだが、昨日は持っていなかった大きめの鞄を肩から下げている。

「おはようございます。本日は宜しくお願い致します」

「……おはようございます」

 ジャドは控え目に挨拶をして頭をぺこりと下げた。

 ジャドは、朝に弱い。早朝にテンションが下がっているのは毎日のことなのだ。

 とはいえ、彼の普段を知らない者からすれば疑問に思うことだろう。

 カームは怪訝そうに小首を傾げて、フードに隠れているジャドの目を覗き込んだ。

「ひょっとして、体調が優れませんか?」

「……大丈夫です。俺、朝はいつもこうなんで……」

「そうですか?」

 なら良いのですが、とカームは通りの向こうに目を向けた。

「では、早速出発しましょう。今から出れば、昼頃にはダンジョンに到着できると思います。ダンジョンに入る前に一度休憩を取り、それからダンジョンに入りましょう」


 隆起した地面が崖のように連なっている森の中。

 そこに、彼らが目指すダンジョンはあった。

 崖のひとつに洞窟の入口のように口を開いている大きな穴。

 それが、ダンジョンの入口だ。

 人の手などまるで入っていない、自然の要塞。

 如何にも危険が詰まっていますと言わんばかりの雰囲気がそこには漂っていた。

 当初の予定通り、ダンジョンの入口に到着した2人はそこで一旦休憩を取り、昼食を食べた。

 無論、作戦会議をすることも忘れない。

「御存知かもしれませんが、このダンジョンには魔物がいます。探索中に出会った魔物は極力殲滅して進んでいきましょう」

「カームさんは戦う手段をお持ちなんですか?」

 ジャドは尋ねた。

 カームの職業は学者だ。一見しただけでは、彼が戦闘手段を持っている風には見えなかったのである。

 大丈夫です、とカームは自らの胸に手を当てて答えた。

「私は、こう見えて魔法の腕に自信があります。並の魔物が相手なら、危険に陥ることはありませんよ」

「そうですか」

 ジャドの戦闘スタイルも、魔法を主としたものだ。純粋な魔道士とは異なり体術もそれなりに使える程度には身体を鍛えてはいるが、魔法で相手を狙撃する戦法を彼は得意としている。

 魔法を主な武器とする学者と、鑑定士。魔法主体のパーティとなりそうである。

 カームは鞄から杖を取り出すと、その先端に魔法で明かりを点した。

「では、参りましょう」

「はい」

 カームを先頭に、彼らはダンジョンへと足を踏み入れた。

 ダンジョンへの来訪者の存在を知らせるかのように、周囲の木々がざあっと風に揺れて大きな音を立てる。

 幾分もせずにそれはすぐに収まり、静寂が辺りに満ちた。

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