第5話 出立前夜、準備

 家に明かりが灯る。

 台所に買ってきた食品を置いて、ジャドはふぅと一息ついた。

 野菜が安く売っていたこともあって、思っていたよりも大量の買い物になってしまった。

 野菜はそう簡単に傷むものではないから良いようなものの、そうでなかったらどう消費しようかで頭を悩ませるところであった。

 ダンジョンに持って行く食事を何にするかは、既に決めてあった。

 後は、これらの食材を調理するだけだ。

 ジャドは手を洗って、袋の中から料理に使う食材を取り出した。

 まず、卵。鍋に水を入れて竈の火にかけて、茹でる。

 固ゆでの状態になったら殻を剥き、みじん切りにして器に入れる。

 次に取り出したのはブロッコリー。房を半分に切り、茹でる。

 茹で上がったら鍋から上げて水気を切って冷まし、細かく切っていく。

 トマトとチーズを取り出して、ブロッコリー同様に細かく切る。トマトの汁気は軽く取った。

 卵を入れた器にブロッコリー、トマト、チーズを入れて、パセリ、塩、胡椒を振る。

 次に、別の器に卵黄を入れて、といていく。

 とけたらオリーブオイルを少しずつ垂らしながら混ぜていく。固さが出てきたら塩と白ワインビネガーを加えて味を調える。

 こうして完成したマヨネーズソースを野菜に加え、全体を和えてエッグサラダを作る。

 黒パンに切り込みを入れ、エッグサラダを詰めたらサンドイッチの完成だ。

「……ふう」

 完成したサンドイッチを持ち運びができるように包み、隣の部屋に持っていく。

 部屋の隅に置かれていた小さなアメ色の鞄を持ってきて、その中に買ったポーションと一緒に詰め込んだ。

 この鞄は、ジャドが冒険者時代に愛用していた鞄だ。小さくて薄いが頑丈で水濡れにも強い、彼のお気に入りの一品だった。

 ダンジョン探索の時は、なるべく持ち運ぶ荷物はコンパクトに纏めるのが鉄則だ。あまり荷物が多いと行動の妨げになり、下手をすればそれが命に係わることになるからである。

 物体の大きさを小さくできる圧縮魔法が使えれば荷物の運搬で困ることはなかったのだろうが、彼は圧縮魔法が使えないのでこればかりは仕方がない。

 荷物を準備したら、明日着る服の準備だ。

 彼は大きな箱を引っ張り出して、中から一着の装束を取り出した。

 装飾の少ない、白を基調とした服だ。旅人が好んで身に着けていそうな作りをしており、あちこちに汚れや傷がある。

 彼が冒険者時代に着ていた旅装束である。

「……また着ることになるなんて思わなかったな」

 独りごちて、彼は装束をハンガーに吊るした。

 鞄の上に鍛冶ギルドで購入した剣を置いて。

 これで、ダンジョン探索に向けた準備は完了した。

 胸がぎゅっと引き締まるような感覚を、彼は感じていた。

 先輩も、出張に行く時は同じ気持ちだったのだろうか。そんなことを思いつつ、台所に戻る。

 夕飯作りの準備を始めながら、明日は晴れると良いなと密かに願いつつ。

 そんな感じで、彼の出立前夜の時間は穏やかに過ぎていくのだった。

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