第4話 薬品調達

 香草のような、独特の匂いが漂っている。

 ギルドの中で錬金術師たちが色々な薬品を調合しているのだろう。

 白衣姿の人間たちが往来する錬金術ギルドの中に、ジャドは足を踏み入れた。

 ギルドカウンターで薬品の瓶を並べていた少年が、ジャドの来訪に気付いて作業の手を止め、彼の方に視線を向けた。

「よう、ジャド君。怪我でもした?」

「こんにちは、ニエルヴェスさん」

 ジャドはニエルヴェスがカウンターの上に並べている薬品の瓶に目を向けた。

「ポーションありますか? 入用になったので、3本ほど売って頂きたいんです」

「ポーション? あるよ」

 入用って何?とニエルヴェスが問うので、ジャドは例の遺物調査の話を彼に聞かせた。

 成程ね、と話を聞き終えたニエルヴェスが腰に手を当ててジャドをじっと見つめた。

「イオ君もダンジョン調査に行く時にポーション買ってたけど、備えあれば憂いなしって言うよね。やっぱり冒険者にとって薬品は必需品だよね」

 正確にはジャドは元冒険者であって現役冒険者とは違うのだが。

 ニエルヴェスはカウンターに並べていた薬品の瓶に手を伸ばし、尋ねた。

「種類はどうする? スモール? それともラージいっとく?」

「ミドルでお願いします。ミドルを3本」

「ミドルね。了解」

 スモールやミドルというのはポーションの種類の名前だ。

 スモール、ミドル、ラージの順で薬品としての効能は上がっていき、その分値段も上がっていく。

 普通の冒険者はミドルを持つことが多く、ラージは金額の問題もあって持つ者はそうそういない。スモールは効能としては微々たるものなのだが、安価なので駆け出しの冒険者が好んで買っていく。

 ジャドはポーションの効能については熟知しているので、迷わずミドルを選んだ。

 本当ならばポーションの出番が来るような場面には遭遇したくはないところなのだが、こればかりは分からないので仕方のないところだ。

 ニエルヴェスが言う通り、冒険者は備えあれば憂いなしの精神でやっていかないと身が持たない職業なのである。

 紙袋に入れられたポーションを受け取って、ジャドはニエルヴェスに頭を下げた。

「ありがとうございます」

「ダンジョンって色々面白いものがあるからね。実入りのある調査になるといいね」

 ニエルヴェスの言う「面白いもの」は魔物から採れる素材のことを指しているのだが、ダンジョン探索が面白いと思えるのはジャドにとっても一緒なので敢えてそこは突っ込まずにおくジャドだった。

 ジャドはニエルヴェスに別れを告げ、錬金術ギルドを出た。

 外はすっかり日が暮れて暗くなっていた。ダンジョン調査のための準備は何かと時間がかかるのだ。

 後は食事の用意だけなのだが、彼は基本的に自炊しているので店で買う必要はない。

 その代わり、材料の調達はしなければならない。食材は基本的に日持ちしないものなので、その日その日で食べるものを店で買うのが一般的なのだ。

 氷魔法を封じた食材の保管箱という便利な道具が世の中にはあるが……あれは高級品だ。何処の家庭にもあるものではない。

 今ならまだ店はやってるからな。急いで買いに行こう。

 東の空に浮かんだ月を見上げながら、ジャドは食品店に向けて早足で歩き始めた。

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