第3話 武器調達

 仕事を終えたジャドは、ある場所に来ていた。

 鍛冶ギルド。鉱石から色々な武具や道具を作り出すことに長けた職人たちが勤める職人ギルドである。

 鉄をハンマーで打つ音と匂いに満ちた空間は、まさに男たちが汗を流しながら働く場所という雰囲気に満ちている。

 ジャドは、熱気を感じる職人ギルドのこの空気が好きだった。

「こんにちは」

 挨拶をしながら入口をくぐる。

 ギルドカウンターに立っていたエプロン姿の男が、彼の声を聞いて振り向いてきた。

 彼の名はヴォスライ。この鍛冶ギルドを経営するギルドマスターだ。

「何だ、誰かと思ったら冒険者ギルドのジャドじゃないか」

 立派な筋肉の付いた腕を組んで、ヴォスライは笑顔を見せた。

「鍛冶ギルドに何の用だ?」

「実は」

 ジャドはヴォスライに話を切り出した。

 明日、ダンジョンに遺物調査のために潜ることになったこと。

 そのための準備として、武器を用意しようと思っていること。

 話し終えて、真面目な面持ちで彼に尋ねた。

「……そういうわけで、剣を1本買おうと思ってるのですが、お勧めの業物はありませんか?」

「成程なぁ」

 ヴォスライは顎を撫でながら、言った。

「お前さんは元冒険者だったよな。それなら初心者向きの剣よりも、玄人好みしそうな剣の方がいいだろうな」

 ちょっと待っていろ、と言って、彼はギルドの奥に姿を消した。

 鍛冶の音を聞きながら待つことしばし。

 剣を持った彼が、戻ってきた。

「体術を使う冒険者に好まれてる一品だ。切れ味もさることながら、軽いのが最大の持ち味だな」

 それは、2本の剣だった。

 刃の長さは短剣をちょっと長くしたくらいで、幅が広い。斬り合う武器というよりも相手の隙を突いて一撃を叩き込むための武器といった風の作りをしている。

 2本あるということは、これは2本で一組の剣なのだろう。

「リーチは短いが、その分小回りが利く。お前さんなら使いこなせるだろう」

「持ってみてもいいですか?」

「構わないぜ」

 ジャドはヴォスライから渡された剣を軽く振ってみた。

 ひゅ、と風を切る音に、ヴォスライはほうと声を漏らした。

「いい素振りだ。元冒険者ってのは伊達じゃないな」

「これは幾らですか?」

「2000ガロンだ」

 流石良質の業物と謳うだけのことはある。

 しかし、ジャドも元冒険者の肩書きを持つ人間だ。武器選びに妥協はしなかった。

「分かりました。これでお願いします」

「毎度あり」

 剣を身に着けるジャドを見ながら、ヴォスライは懐かしいなと言った。

「そういえば、イオもダンジョン調査に行く時に剣を買ってったんだよ」

「先輩がですか?」

 武器とは無縁そうな先輩の姿を思い浮かべ、ジャドは目を瞬かせた。

 先輩は戦闘に関してはまるで素人のはずなのに、陰で色々なことをやってたんだなと思うと、何だか微笑ましく思えたのだった。

「イオは結局剣は使わなかったって言ってたが……お前さんはそういうわけにもいかんだろ。怪我しないように、その剣を使って自分の身はきちんと守るんだぞ」

「はい。ありがとうございます」

 ヴォスライに礼を言って、ジャドは鍛冶ギルドを後にした。

 これで武器は手に入った。後は怪我をした時のための薬品と、ダンジョンで食べる食事の用意だ。

 次の目的地に向かうべく、彼は大通りを目指して歩を進めた。

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