22.告白 反政府組織ゴーディアン・ノットによる北大襲撃。真柄と共に北大病院からの脱出を図る磯野達。防弾車両に乗り込ませ脱出させた女性は、自らをHAL05と名乗り――
22ー01 救急車っていうのは、かなり乗り心地の悪い乗り物だねえ
「ハル……ゼロファイブ?」
彼女が口にした数字に、俺は戸惑いを隠せない。
ライナスは
昨日迷い込んだ別の世界線。俺と
「
「え?」
「四日後の八月二二日まで身を潜め、ふたたび――つかまって!」
HAL05と名乗った女の声と、榛名と千葉の
「なんだ!?」
「対戦車ミサイルです」
「ミサイル!?」
路地へと入った車は、前方をふさぐ六人の戦闘員らしき人影に加速した。
運転席から拳銃の
「あの装備はゴーディアン・ノットです」
ハンドルを握りなおしたHAL05は、声色を変えることなく言った。
彼女のまとう空気、それはハルともHAL04ともちがっていた。彼女のそれをひと言でいうならば、「冷たさ」。人のかたちをしているが、彼女の雰囲気、振る舞いは、無機質な――機械のようだった。
榛名は千葉の耳を塞いだまま彼女を抱きしめていた。俺と目が合った榛名は、青ざめた顔のまま平静をよそおってうなずいた。
榛名は……彼女は、敵が撃ち抜かれた光景を見たのか?
運転席の真後ろだから、榛名からは死角になっていたはずなんだ。けれど――
「怜ちゃんたちは!? みんなは無事なんですか!?」
榛名が声をあげる。
と同時に、無音だった左耳の通信用イヤフォンから、空気音――サーッというホワイトノイズが浮かび上がった。
「磯野か?」
「
「榛名さんは? 霧島のご姉妹は無事なのか?」
「磯野!!」
柳井さんの声に悲鳴のような叫び声がかぶる。
「
俺は思わず叫び返してしまう。
ほんのわずかな無音のあとに「わたし、本気で……心配、したんだから」と言う
「怜ちゃんも……本当によかった。柳井さん、磯野くんも千葉もわたしも無事です。みなさんは?」
「榛名さん、こっちも全員――俺に竹内、千代田さん、
「救急車っていうのは、かなり乗り心地の悪い乗り物だねえ。骨折で運ばれたら、病院に着くまでにのたうち回りそうだ」
「三馬さん!」
かなり気をつけて走ってるつもりなんですけど、と言う千代田怜の声が、榛名の声と重なって聞こえた。
「怜が運転しているのか?」
「……そう」
「自動運転じゃないのか?」
「機械なんかにまかせておけないじゃない!」
みんな無事に脱出したってことか。
「HAL! 昨日の晩、
「彼らは大学ノートとともに、あのあとすぐに札幌を脱出しています」
「……よかった」
よかった?
俺は、つぶやいた自分の言葉に苛立ちを覚えた。
ちがうだろ。昨晩、あの実験のあと早々に脱出したって、それって……。
「……
いや、俺たちだけじゃない。
……ふざけんなよ。
「ふざけんなよ! ZOE!! お前はすべてわかったうえで、あんなに大勢……あれだけの人たちを犠牲にしたのか?」
「今回の作戦はホワイトハウスと日本政府の共同作戦です。
ZOEの代弁をするHAL05の口調は、相変わらず事務的な冷たさをまとっていた。代弁どころか、彼女こそがZOEと呼ばれる存在そのもののようにさえ思えた。
「お前、本当にハル……なのか?」
俺は問うてしまう。いままで出会った彼女とはあまりにかけ離れ過ぎている。いや、ZOEだと思えば、これほど一致する人格は無いとも言える。だからこそ、人間らしい優しさをまとっていたハルと重ねることが出来ず、俺は、混乱した。
「わたしはHAL05。わたしが起動するフェーズは、磯野さんと榛名さんのお二人を、あなた方の世界に無事送り届ける段階に到達したときです」
「そうじゃない。俺が訊きたいのは、」
「わたしは任務遂行上、HAL01から03までの記憶を除外しています。三体の経験は文字情報としては把握していますが。わたしはZOEの意思を直接的に遂行する端末として機能しています。これで、よろしいですか?」
HAL05は、バックミラー越しに
「わたしたちは四日後の八月二二日まで身を潜め、ふたたび札幌の
俺の返答を待つことなく、HALは言う。
――旭山記念公園?
「待ってくれ。話が見えない。なぜ八月二二日……旭山公園なんだ?」
俺は思考が追いつかないまま、彼女に問う。
「八月二二日一四時四四分〇七秒。その時点が、あなたたち二つの世界に戻れるタイミングだからです」
――八月二二日一四時四四分〇七秒。
元の世界の、そう、旭山記念公園で、俺のドッペルゲンガーに遭遇した直後の入れ替わり時間。
「磯野さん、榛名さん、お二人はこの世界での役割を終えました。今後はあなたたち二人のいた世界の存続を第一に考えて、行動してください」
「ハルさん! わたしたちはライナスさんと三人目のハルさんを助けるために、」
「この襲撃を指揮しているのはHAL03です」
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