20-06 きみたちと私たちの目的は同じはずだから
とはいえ拳銃を構えるにも、榛名を抱えた状態じゃなにもできない。逃げ出すにしても、千葉を置いてもいけない。
俺は、左耳のイヤフォンをはずし、周囲を
人影たちのうち、前方にいる数人が、俺たちに近づいてくる。
その動きは、
俺は、固まったまま動けない。
……どうすればいい?
一歩、一歩と、人影が近づいてくる。
武装したシルエットは、その顔が見えるくらいまでに迫ってきた。
俺は、榛名をつよく抱き寄せる。
「……え?」
ところが、無数の人は俺たちを
すれ違いざまに見えた兵士の
あの顔、どこかで見た記憶がある。
けど、どこで……?
「きみは、磯野くんか」
聞き覚えのある声に俺は振り返る。
そこには
その兵士は、たったいますれちがった兵士とは違い、意識をもってそこにいるように思えた。男が数歩近づいたところで、ヘルメットの下にある顔があきらかになる、
「……あなたは……佐々木さん?」
以前、
佐々木さんは無線を取り、なにかを伝えている。
腕のなかにいた榛名が、身体を起こした。
「榛名、大丈夫か?」
「ありがとう。わたしは平気。この人は?」
榛名が立ち上がるのを手伝いながら、俺は「佐々木さんだ」と答えたあと、彼女の耳もとで、油断するなと付け加えた。
「磯野くん、無事だったのか」
「どうしてここに?」
「
「……KGBの特殊部隊」
「
奥からもう一人、自衛隊の隊員には似つかわしくない、
「真柄先生」
「数日振りだね。きみたち二人がいるということは……そこにいるのは、
「俺たちを捕まえに来たんですか」
俺たちは一歩後ずさる。
「待ってくれ。磯野くん、きみたちが
「あんたの望みは関係ない。俺たちの邪魔をするなら、」
「すまない。あまり時間がないんだ。きみたちは、きみたちの目的のためにも急いだほうがいい」
「俺たちの目的?」
「北大へ急ぎたまえ。きみたち……いや、今回は磯野くんか。きみがこれから行うことは、この世界においても重要なことだ。いまはZOEに任せるよ」
「けど、ZOEは、」
「……ああ、敵の妨害にあっているのか。我われの通信網に入り込めばいいものを。……出来るか?」
手を引いていた子供に、真柄先生は言った。
「その子は……」
そこにいたのは、研究所でカロリーメイトを分け与えた子供だった。
サイズの合わない防弾ベストを着たその子は、俺を見て一瞬目を細めたあと、なにごともなかったかのように表情を消した。
「ああ、研究所で会っていたのか」
「なんで、こんな小さい子を――」
言葉を発した瞬間、俺はライナスの言葉を思い出す。
――彼らもまた、イソノさんの遺伝子を利用して、バルク空間へアクセスしようとしている
そうか。この子は、ハルとおなじ――
「……俺のクローン、なのか」
真柄先生はうなずく。
「そいつを使ってどうする気だ」
「ZOEと同じだよ。磯野くんの遺伝子を持つヒューマノイド・クローンなんだ。バルク空間への侵入および、この世界と、国家の安全を守るためにはたらいてもらう。ただし、
「……コントロールの核?」
さっきのゾンビのような兵士の顔が、頭をよぎった。
どこかで見覚えのあるあの顔。そこですべてが結びつく。あれは、
――研究所のエレベーターの正面、ガラス越しに並んでいた人間たち。
ハルを助け出すときに見た、無数の「人」だった。
人形のように立ち尽くしていた彼らもまた、
「あれも、ヒューマノイドか」
「ああ、あの兵士、デミ・ヒューマン――
「その子が? あの兵士たちを?」
「大丈夫だ。きみたちの仲間には手を触れないよう命令してある」
「……手を触れないって」
――助けてくれるのか?
俺の脳内が、わらをもすがるように、その言葉を吐いてしまう。
だが、目の前にいる男を、俺は信用できない。……ああ、俺のクローンを作り、それを黙っておきながら利用するこの男を、信用してはならない。
……けれど、それならライナスとのちがいは、なんだ?
「間に合えばだがね。今回が
ああ、そうだ。
この男は、どこかで人としての冷たさを感じるんだ。
それが、ライナスと決定的にちがう。
真柄さんは、護衛の自衛隊員たちとともに、無数の銃声が響くジェット機の
「では、また会おう。きみたちと私たちの目的は同じはずだから」
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