18.ニセモノ 新東京駅襲撃事件から、人工知能ZOEによって千葉県内のショッピングモールへと匿われた磯野と榛名。身を隠している間、二人はやっと再会を喜ぶが……。
18-01 俺と、きみが、なにをしてきたかなんて、俺にはわからないのに
「ごめん。起こしちゃったな」
「ううん、気にしないで」
「……無事で、良かった」
「
彼女の手を触れている
胸が
けど、やっとここまでたどり着けたのだから、彼女とふたたびめぐり
「「あの」」
俺たちは目を合わせられないまま、またうつむいてしまう。
――本当は、話したいことが、たくさんあるはずなのに。
――なにから話せばいいのか、わからない。
いままで、走りつづけて、ひたすら走りつづけて、やっと彼女にたどり着けた。彼女までの道のりを全速力で駆け抜けるために、途中で転ばないように、俺は俺の
失敗は
失敗したなら死をもって
その
だからこそ、わからない。
彼女のとの、このさきのことが、わからない。
彼女が、
――なにを話せばいいのだろう。
いま、この瞬間、俺たちは生きている。
それはとても嬉しいことで、幸せなことで、それだけで、本当にそれだけでよかったはずなんだ。そうなんだから、彼女と
だから、もうなにを話したっていい。
なんだっていい。
彼女に――
ふと、俺の左手がほんの少しだけ強く
かすかに、彼女の
「
その言葉は、とてもやさしくて。
とてもとてもやさしくて。
いままで抱えてきた、背負ってきた、頑なだった、俺の
八月一二日のあの夜から雨のなかで悔やみ、背負ってきた重みが、
――
俺はうつむいて、それにあらがうように、両手に力を入れようとする。
まだ崩れちゃいけない。
そう自分を保とうとして、けれど、どうしてもダメで。
そんな自分の弱さに、いまさら
それが、全身へと
だから、
……なに、泣いてんだよ、俺。
……止まれよ、みっともない。こんな顔、榛名に
――みせられるかよ。
それでも、涙は止まらない、止まらない……止まらない。
どうしても、俺の身体は、泣くことをやめようとしなかった。
出来なかった。
みっともなくて、
あまりにもみっともなくて、
そんな姿を見せたくなくて、
うつむきつづけながら、俺は、
「……覚えてなんかいないのに。俺と、きみが、なにをしてきたかなんて、俺にはわからないのに。それが、
それすらもどかしくて。悔しくて。
言ったからって、
どうしても、止まらなくて。
いままで見たみんなの顔が、頭のなかを
どうしようもなかった俺を奮い立たせてくれた
かならず戻ってこいと見送ってくれた、
だけど、
「みんなのため……なんて、
「……なにもかもが突然で、こころの準備なんて本当は出来てなくて、ただの大学生の俺が、なんの覚悟も無いのに、こんなところまできてしまって。そんな俺がやれることは、がむしゃらになるしかなくて、けれど、命までかけてるっていうのに、落としているっていうのに、」
――いままでやってきたことを
そう、言い切ってしまっている
「磯野くん」
霧島榛名は、うつむいていた俺の顔をそっと触れた。
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