14-04 すこし面倒ではあるがね
いつのまにか、また眠っていたらしい。
目をあけると、真柄先生ともう一人、おなじく白衣を着た
俺は言葉を発しようとして、違和感を覚えた。
俺がいる場所は、あの白い部屋ではなかった。
壁にあるボタンに「
文字が読める。
ほかにも読めるものがないか見まわすと、部屋の
「七日ものあいだ、閉じ込めてしまってすまなかったね。しかし、我々には、こうするしかなかったんだよ」
おだやかな口調だった。
――相手の言葉が解る。そのことに驚きを隠せない。
真柄先生とは、もともと現実世界でお会いしていた。
だから言葉が通じても受け入れることができた。榛名だってそうだ。この世界の榛名、彼女はそう言ってはいた。だけど、俺にとっては、やはり彼女は霧島榛名なんだ。ところが、いま目の前にいる、おそらくこの世界の人間、この
落ち着いた佇まいのその男性は、手を差し出した。
「私は
謝らなければならないこと?
言葉が聞き取れることにすら
「そうか。それもそうだな。きみは、なぜ私と話が出来るのか不思議に思っているんだろう?」
朝倉と名乗る男性の
「水だよ」
水?
「ここ一週間、あの部屋にきみを過ごさせたのには理由があるんだ。きみの体内にある水分を、この世界のものに入れ替える必要があった」
体内にある水分を入れ替える?
「きみたちのいる世界とこの世界の水分の性質は、すこし違うらしい。まだ
あの点滴液は、この世界の水分ってことなのか?
俺には、真柄先生の言う
まて、いま真柄先生は、きみたちの世界と言ったな。ということは、真柄先生は、現実世界の人間じゃないのか?
俺の思考をさえぎるように、初老の男性はつづける。
「大変言いづらいことなんだが、あのメスについては、どうしても試さなければならなかったんだ。すまない」
メス? ああ、あの俺に自殺する選択肢を与えたあのことか。やはり、あれは――
「俺は……死んでも死なないってことなんですか?」
「いや、そうではない。
「異なる性質?」
「そうだ。その性質が、
言っていることが飲み込めない。
いや、二度の死と、その後の生存世界への収束のことなら話は解る。とはいえ、この人の話し方は、そのことを明確に言うことを
「
真柄先生の言葉に乗って、俺は自分の考えをぶつけてみる。
「あの、俺が死んだ瞬間に、俺がまだ生きている並行世界に飛ばされることについて言っているんですよね?」
朝倉先生は、感心したように大きくうなずいた。
「なるほど、そこまで理解出来ているのであれば話は早い。我われはあのとき、礒野さんが死ぬことを望んでしまった。あの部屋にあるマジックミラーでね。きみが死ぬ瞬間に発生するであろう、
実験……か。
俺が自殺を
「ということは、やはり、俺は死んだ瞬間に別の世界線へと収束しているんですか?」
「
朝倉先生は、静かに俺を見た。
その青がかった目の中に、人の欲望とは無縁の、ただ目的のためだけに存在する機械のような純粋さを、垣間見てしまったような気がした。俺の動揺を察したのか、
「いや、きみは気にしなくていい。別の方法で確かめられるようになったんだ。すこし
別の方法?
「話を続けよう。磯野さん、なぜきみがこの世界に来たのか、それには理由がある。磯野さん、きみと霧島榛名さんの二人によって、この世界が
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