13-03 どのプラットホームへ上がればいい?
ルート? 六時? 二〇メートル?
全体的にくぐもってはいたが、ハッキリとそう聴こえた。
ネットから拾ってきたような音声を、一音ずつモザイクのようにツギハギした音。それが電話の向こうから俺に呼びかけてきた。
「誰だ?」
「る ー ト――ろ く ジ――2 じ ゆ ウ め ー ト ル」
意味がわからない。
言葉の通じないこの世界のなかで、日本語を使い、しかも、俺のスマートフォンに電話をかけてきている。混乱した俺の脳は、この状況にどう反応していいか
「あんた誰だ? なぜ番号を――」
「る ー ト――ろ く ジ――2 じ ゆ ウ め ー ト ル」
「ここはどこなんだ? なんのルートなんだ!?」
思わず叫んでしまう。
しかし、電話の主は俺の問いを無視して、つぎの言葉をつづけた。
「け イ 告――く ジ――2 じ ゆ ウ ビ ょ ウ」
警告? 九時?
「九時ってなんなんだよ!」
左側から
俺は声のほうへ目をむけると、警備員とおぼしき男が三人。東洋系が二人と、
……なんだよあいつら。
「け イ 告――十 に ジ――3 じ ゆ ウ ビ ょ ウ」
十二時? そうか、
――方角か!
前方を見ると、同様に三名、拳銃を抜きながらこっちに向かってくる。
……まずい。まずいまずいまずいまずい。
「……ルート、六時、二〇メートル。ルート六時、二〇メートル――」
電話の主が言っていた言葉を、口に出して繰り返す。
……ルート。
……逃げ道ってことか!
俺は六時――うしろを見た。
改札を通って……二〇メートルってことは、プラットホームへ上がれということか?
「け イ 告――じ ユ ウ――キ ゆ う――八――な ナ――」
電話の主のカウントダウンとともに、銃口を俺にむけた三人が、左側から迫ってきた。周囲の人々が拳銃に驚き、ふたたび悲鳴をあげた。
ちくしょう!
俺は改札機を通り、走り出した。
「頼むから、前後左右で言ってくれ」
電話の主に、俺は愚痴に近い要求を告げながら、プラットホームへの階段へ迫った。が、そこで降車客の波とかち合ってしまう。人ごみに押されながらも、かき分けて無理やり階段を上ろうとする。振り返ると、警備員たちは人ごみにさえぎられて、俺に
いまのうちにやつらの
そう思った瞬間、背後から乾いた
直後、大勢の悲鳴が構内に響き渡った。振り返ると、警備員の一人がが天井に銃を向けていた。周囲の人々が
まずい!
一気に
俺は屈んだ人々の隙間を縫って、一気に駆け上がった。さすがにこの人のなかへ向けて銃弾を撃ち込めなかったらしい。各プラットホームへの連絡通路へ上り切るまでに、銃声が響くことはなかった。
俺は通路を見回す。
どのプラットホームへ上がればいい?
俺はスマートフォンを耳もとに添えたが、通話中にもかかわらず、電話の主からの言葉は無かった。迷っている暇はない。俺は、目の前の階段を上がった。
プラットホームにたどり着くと、視界に出発間近の車両が現れた。背後には複数の足音。
「まずい!」
俺が前に転がり込むのと同時に、二発の乾いた銃声が背中をかすめた。
俺は前のめりになりながら、チューブ状の
――
俺の脳が体に命令を下す。開かれたままのドアから、
男たちの目の前で、車両のドアが一斉に閉まる。
列車の外の音が、消えた。
「……真空か」
分厚いドアの窓を通して、俺と警備員たちが対面した。動きだす車両に合わせて三人の銃口が俺を追ってきた。が、三人が視界から消えるまで、ついに
車両の
列車は、長かったはずの
とにかく頭を冷やせ。
いまのはいったいなんだったんだ?
やつらは、
俺はスマートフォンを見た。
通話が切れている。
しかもバッテリーは、一〇パーセントを切っていた。
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