11-08 ちゃんと、探し出さなきゃ
青葉綾乃の話は、俺がオカ研世界にいるあいだに起こった、あることについてだった。
――千代田怜は、俺がオカ研世界にいるあいだにもう一人の俺に告白をしたらしい。
想像するに、あの
告白をされたもう一人の俺は、自身がオカ研出身であることを伝え、そういうことは映研出身の俺とのあいだで話をするよう説得したそうだ。
ちくしょう、逃げやがって……。
いや、言っていることは正しいんだけれども。
つまりこの時点で、この俺本人ではないにしろ、一度は俺に振られている状態にあるってことだ。
千代田怜の車に乗り込み、まずは
沈黙は避けたいので、
「なあ怜、このインプレッサ、去年の夏に手に入れたって言ってたけど、よくそんな金あったな」
「たまに行くほうのバイト先で買い取ってたキズものだからね。かなり安いうえに身内価格だし。それに移動するだけならこれで
いやいや、移動するだけって……完全にドリフト用じゃねーか。
心の中でのツッコミではあったが……なんだ、これ、とても懐かしい感じがする。たしか、イギリス
「この子にも
俺は自転車
「俺がインフルかかってたときに、クロスカントリー部の
たしかあのときも、
「そうそう。維持費考えたら手なんて出せないんだけどね。そのディフェンダーも親の車らしいし。……ねえ磯野、あんたも早く
そう笑顔で話す怜は、どこか
三馬さんのあの言葉で、千代田怜は
だとしたら、いまこそちゃんと言わないと。
「なあ、怜――」
そう口をひらいた俺に、怜は、ちらりと
「磯野、あのね、そんな顔してちゃダメだよ。これからその、霧島榛名さんを救いに行くんでしょ?」
「だけど――」
「……聞きたくない。ごめん、運転に集中したいから」
その一言で、俺は、言うべき言葉をつぐんでしまう。
「それに、磯野、
――ちゃんと、探し出さなきゃ」
こうして、俺たちは無言のまま、その日を過ごした。
大学二年生の夏の終わり。
そんな時間を、こんな奇妙な事態に巻き込まれ、
そんなことを思い、俺は怜への感謝の気持ちにいまさらながらに気づきながらも、彼女が欲しい言葉はそういうものではないということも、また胸に抱えてしまったまま、翌日も、翌々日もその無言の空間に慣れてしまう。
そう、慣れてしまうことで、なにかが
そして、なんの手がかりも無く、二二日を迎えた。
八月二二日 一四時二五分。
それは、突然起こった。
怜と俺は
「磯野! 見つけた! ……
入れ替わりは今日の一四時四四分〇七秒。
……おい、いまさらかよ!
あと二〇分を切ったこのタイミングでのドッペルゲンガーの
「怜! 旭山記念公園だ!」
「わかった!」
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