10-10 この世界についての話をしよう
「色の薄い世界」に関する
読み進めていくと、立て続けに起こる超常現象と、重なり合うほかの榛名と情報共有するために、冷静さを保ちながら、いままで起こったことを書き記している箇所を見つけた。
――会長さんはヨモツヘグイと言っていたけれど、やっぱりそれが原因なんだろうか――
ヨモツヘグイ?
文字の滲みがひどくなっていく。
しかし、これ以降は水に濡れた感じの滲み方ではない。俺の場合とおなじように、重なり合った無数の榛名が書き込んだことによって起こった、なぞられた文字の滲みだ。
ページの後半にかかると、また水に濡れた箇所が多くなり、ほぼ読める箇所が無くなってしまった。最後の方は、オカ研世界で目の当たりにしたのと同じく、ページ全体が真っ黒になっている。昨日
ただ、最後のページだけ、書き
――私と遭遇した。たくさんの私。だから、もう消えてしまう。だから、■■くんを遠ざけなきゃ、じゃないと、巻き込んでしまう――
名前の部分が潰れてしまっている。
ただ、この文字の潰れ方は、おそらく俺だ。
――たくさんの私。もう消えてしまう――
これはドッペルゲンガーについてのことだろう。
最後のページの書き込みは、いつ書かれたものなんだ?
手前の数ページは真っ黒に塗り潰されている。けれど、最後のページはちがう。向こうの世界で三馬さんが
三馬さん?
――この時点で三馬さんは
最後のページが比較的読める箇所が多いのは、三馬さんが関わっていたのか……。となると、この最後のページへの書き込みは、何者かの
わずかに判別できそうな日付は八月。そこまでは読めた。だが、
「七日か?」
柳井さんが驚きながら、最後のページをのぞき込む。
「……ですね。そのしたに、……漢字の十」
そうか、この時間は――
――八月七日、午前十時二一分。
フラッシュバックが起こる。
その日の、G-SHOCKがさすデジタル表示が、
窓から差し込む夏の
湯気の、白で満たされたバスルーム。
そのとき、俺が、なにをしていたかを、いまさらながら思い起こさせた。
そう。俺はシャワーを浴びていた。
あのとき、妙な
まるで、何年もまえの夢の記憶を、いまさら思い出す感覚。
そのきっかけが、この最後のページに書かれた日時だった。
――なぜ泣いているんだろう
あの
追っていた?
霧島榛名を?
このノートの濡れたような滲みは、
――八月七日の雨?
実際は、
けれど、このノートと俺の
消えてしまった霧島榛名が知っているであろう八月七日は、
――雨の世界。
だとしたら、雨の八月七日は、榛名と共に消えてしまった世界なのかもしれない。
そうか。
いままで避けてきたが……ちがうんだ。
霧島榛名を見つけ出すには、
――ドッペルゲンガーと遭遇しなきゃいけないんだ。
「磯野!」
柳井さんが、俺の肩を揺らしていた。
「大丈夫か? 三馬からおまえに電話だ」
俺は柳井さんのスマートフォンを受け取り、耳もとに添える。
「もしもし。磯野君か。おつかれだったね。実はこのあとそちらで
――この世界についての話をしよう」
三馬さんのその言葉に、俺は電話越しにうなずいてしまう。
「ありがとうございます」
そのあとひと息おいてから、
「俺からも一つお
「いいとも。言ってみたまえ」
「ドッペルゲンガーとの、接触方法についてです」
10.ドッペルゲンガー END
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