10-02 大変なことになったね
八月十六日 二〇時三二分。
ようやく
ご
三馬さんは、俺たちに笑顔を振りまきながら、
「遅れて申し訳ない。ドッペルゲンガーだって? 大変なことになったね」
そこまで言うと三馬さんは目を止めた。
視線の先には千代田怜。
「なんだい柳井。このサークルには美人しかいないのかい?」
「え、わたしのことですか?
「あ、最近はこういう言葉もセクハラに当たりますな。大変失礼しました。どうも三馬です」
「あ、いえいえ。あは、千代田怜です」
怜は
なんというか、その、ちょろい。
「これは返すよ」
三馬さんは、
「とは言っても、さっそく使うことになるのだがね。時間が無いのだが、柳井から聞いたドッペルゲンガーに対する一時的対処について少し時間をとろう」
俺はノートをペラペラとめくり確認してみたが、特に異常はなかった。文字が追加された
「さて、柳井が送ったというSNSについてだが、もしドッペルゲンガーの磯野君から返事があったら
厄介なこと?
「三馬、それはどういうことだ?」
「柳井、もともと磯野君が二つの世界を
「二重スリット実験?」
「あーつまり……
と、柳井さんが俺たちに
三馬さんは「ところがだ」と言って俺を見る。
「大学ノートによって重ねられた磯野君が、君一人に収束されずにドッペルゲンガーとしてこの世界に現れたとなると、この世界に二人の磯野君が存在してしまう。これはこの世界にとって、とても大きなねじれとなる。そのねじれた状態から我われとのやり取りが発生した場合、そこから分岐する無数の世界が新たに発生してしまい、比較的正常だった映研世界との
「三馬、それはつまり、ドッペルゲンガーとやり取りをしたら、その事実によって、このオカ研世界がさらにねじれてしまうってことか?」
「そういうことだ、柳井。どうやったって大学ノートだけでおさまるしかない
「いえ。……けど俺には話がまったくわからなくて」
柳井さんは
「磯野、俺も
「それって――」
「今回はあと三〇分もすれば映研世界に戻れるだろうが、次にこちらの世界にきたら、オカ研世界と映研世界のあいだの
――帰れなくなる可能性が出てくるってことだ」
……それって、つまり――
「このあと俺が映研世界に戻ったら、むこうにいられる時間内にすべての決着をつけなきゃいけないってこと、ですか」
柳井さんがうなずく。
「難しい……ですね」
俺の言葉に、三馬さんが代わりに答える。
「柳井がSNSに送信したとき、ドッペルゲンガーがすでに消えていたらいいのだが……。こればかりは
「二一時四分五七秒ですか?」
「そうだ。あと……二〇分程度か」
三馬さんは腕時計から目を離す。
「
電磁波研究所? 電離層観測装置?
「三馬、八月七日に太陽フレアでも起こっていたのか?」
「そう思うだろう? 違うんだ柳井。電離層はいたって
「デリンジャー現象でも起こったのか? いや、電離層が静穏って言ったな。ならそんなことは起こらんか」
「ああ。仮にデリンジャー現象――電離層の異常による通信障害――だったとしても、非常に
「三馬。その規模って一体どれくらいのものなんだ?」
「それが
ただし、と三馬さんは続ける。
「よくよく調べてみると、この誤検出が四箇所の地磁気観測所から同時に発生していた。そして、今確認しているところでは、アメリカ、カナダ、イギリス、スウェーデンの各観測所でも同じ時間に、
三馬さんは一度言葉を切り、この場にいる全員を見渡して言った。
「この異常観測は世界規模で起こっている」
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