09-10 絶対に救い出してやるからな
円山公園前までちばちゃんを見送ったあと、地下鉄東西線に乗って、途中乗り換えとなる大通駅まで向かう。ひとり座席に座りながら、先ほどのちばちゃんの話を思い出す。
「……ふざけるなよ」
思わず口に出ちまう。
誰にむけていいかもわからない腹立たしさ。それが俺の身体のなかでぐるぐると
映研とオカ研、この二つの世界両方で、榛名とその父親は事故に遭い、こっちの世界ではさらに父親を失っていただと?
映研世界の榛名も足を不自由にするくらいなのだから、この世界よりももっと
なんて話だ。榛名もちばちゃんも、事故からまだ二年しか経っていない中で、父親の死を心に留めながら、しかも、俺たちにはそんな気も見せずに明るく振舞っていたなんて。
榛名も榛名だ。なんでここ一年で俺たちに、少しでもいいから甘えてくれなかったんだよ。柳井さんだっていたじゃないか。
いや、俺はそんなことに怒っているんじゃない。
こんな現実を突きつけてくる運命……神様ってやつに腹をたてているんだ。
なあ、神様。なんでよりによって、どちらの世界でも事故を起こして二人を悲しませるんだよ。どちらか一方でいいとは言わないが、だからって、両方の姉妹を苦しめなくたっていいだろう?
俺を超常現象に巻き込ませる神っていったいなんなんだよ。
そもそもこれが神の
だいたいにおいて打ちのめされるのなんてのは、俺一人で十分なんだ。それにいまの俺の状況なんて、榛名やちばちゃんが抱えているものから比べれば、ぜんっぜんたいしたことじゃない。それなのに――
「クソ喰らえ!」
たったいまも、あの色の薄い世界に霧島榛名が一人取り残されているんだぞ? 神だか宇宙人だか知らんが、そんなサディスティクなことをするやつに言ってやる。あんたが起こした超常現象、それを
――絶対に救い出してやるからな。
そのあとでヘラヘラと笑うその神ってやつの顔に一発ぶち込んでやる。
「…………!?」
――違和感。
あたりを見回すと、乗車中の地下鉄には走行時の揺れはすでになく、周囲にいたはずの乗客もまた、どこにもいなかった。
「どういう……ことだ?」
まさか……また色の薄い世界?
にしては、世界は
「……あ」
目の前の
東西線終点の新さっぽろ駅、つまり、とっくの昔に大通駅を乗り過ごしていたのだった。
……なにやってんだ、俺。
しばらく待っていたら、このまま大通駅方面に切り替わるよな……?
八月十六日 十七時十八分。
大学に戻り、オカ研部室のドアをあけた。
と、そこへ待ってましたとばかりに、柳井さん、竹内千尋、千代田怜の三人が顔を向けてきた。正確に言うなら、三人とも俺の顔をみて神妙な
「お待たせしてすみません」
「大丈夫だ。三馬もギリギリになるらしい。それより――」
柳井さんは、神妙な表情のまま窓際から腰を上げて竹内千尋を見た。
千尋は俺に向きなおると、確認するように尋ねてくる。
「ねえ、磯野はいつ大学に着いたの?」
いつ?
「いまさっきだけど」
「そっかあ」
千尋は珍しく腕を組んでそのまま考え込む。なんなんだ?
それに代わって、同じく難しい顔をした千代田怜がアイスコーヒーをテーブルに置きながら言った。
「あのね、千尋が一時間くらい前に、大学で磯野のこと見かけたんだって」
「は?」
そのころは、ちばちゃんと話している最中だったよな。
……って、それって――
「……俺の、ドッペルゲンガー?」
「うん、多分。わたしがこの前見たのと同じやつだと思う」
怜もまた真剣な面持ちのまま、俺を気遣うような目を向けた。
ってことは、やはり――
「柳井さん、これってやっぱりあの大学ノートの警告ですかね」
「……ああ、だろうな。磯野のインフレーションがあまりにも集約されすぎた結果、この世界に
ドッペルゲンガー。いわゆる都市伝説として有名な
「死ぬって……ことか?」
09.彼女の理由 END
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