07-10 竹内は興味津々になると、乙女のように目が輝くなあ
二人の榛名は、俺が陥っている状況と同様の事態だったはずなんだ。そんななか、俺が二つの世界を行き来していると告げたら、もし俺なら、
けれど、いままでの彼女に、そんな素振りは一度もなかった。
なら、考えられることは二つ。
一つ目は、オカ研の霧島榛名の記憶から、もう一人との通信していた記憶が抜け落ちてしまった、もしくは、そもそもそんなことすらなかった。
二つ目は、映研世界の榛名が「色の薄い世界」に囚われていることを知っていたうえで、あえて俺たちに隠していた。
前者なら、話しても問題はないだろう。
だが、後者だった場合、さらに彼女にとって「色の薄い世界」に囚われた榛名を救い出そうとすることが好ましくないのだとしたら、こっちの手の内を明かしてしまうことになる。
……それは、とてもまずい。
目の前の榛名のことは、正直好きだ。
だから、この子を疑いたくはない。
けれど俺は、あの榛名を、浜辺に一人残された霧島榛名を絶対に救いたい。そのためには、リスクを
だから、俺は――
「いい風だね」
榛名は、つぶやいた。
彼女を見てハッとする。
帽子を被った榛名の横顔は、一年前の桜の舞う日に、
榛名は
「礒野、わたしたちが浜辺にいるのは、ホテルの朝食が終わってしばらく時間があったから、海でも見に行こうってことになったわけ。他の連中は朝風呂に行ってると思うぞ」
「……なるほど」
こちらに流し目を向ける榛名に、俺はまたもやドキッとさせられた。
俺もまた、顔を海へとむけてしまう。
榛名は、気を遣ってくれたのだろう。
俺が、なにも答えることが出来ないままの時間を、そっと動かしてくれたんだ。
彼女を疑うことが、なんだか、馬鹿らしく思えてきた。
根拠なんてない。けれど、いまのやり取りで、すくなくとも俺に対して悪意などというものを持ち合わせているとは
けれど、彼女に切り出すタイミングもまた、逃した。
顔を上げると、目の前の海が昨晩の景色と重なる。
砂浜なんてどこも似たようなものなんだから、同じ場所であるとは限らない。あの色の薄い世界は、現実世界とはまったく別の世界である可能性のほうが高い。
けどなんで霧島榛名は砂浜にいたんだ?
あの砂浜は現実世界とリンクしているのか?
だが、オカ研世界とあの色の薄い世界との接点は――
榛名は、いつの間にか俺の顔をのぞき込んでいた。
「おわあ!」
「またあ。なに難しい顔してるんだよ」
榛名はぷっと吹き出す。
効果は絶大だった。
そんな俺を見て、イタズラ顔のまま榛名は微笑んだ。
白いワンピース姿という、いかにも女の子らしい格好からか、
「榛名さ、ふだんからそういうレースのついた可愛らしいワンピースなんか着てくれたら、
「…………」
「……どうした?」
「それ……昨日も同じセリフ聞いたぞ」
榛名もまた照れくさいのか、耳を赤くしながら、ぷいと顔を海へ背けた。
なんだよ……。やっぱりかわいいじゃねーか!
「榛名、いまお前ちょっと恥ずかしくなっただろ」
「うっさい」
「あー、やっぱり照れてる照れてる」
「……もう。それ以上言ったら、二度と着ないぞ」
「え? あ、いや、ごめんなさい」
「わかればよし」
「反省するから、今度は、ブラウスで
「……磯野、このタイミングで言うのか。それに、わたしのいつもの恰好なら鎖骨くらい見えるだろ」
「いや、スーツとか、お嬢様風の恰好とかで見えるのがいいんだよ」
「へ? ……へー」
俺の
宿泊部屋に戻る
「いい湯でしたか?」
「ああ。磯野も榛名もなるべく入ったほうがいいぞ。温泉なんてふだん入れないからな」
「だよー。いい
満足そうな笑顔で竹内千尋も答えた。
まさかこっちでも泳いでたんじゃないだろうな。
「会長、この磯野、さっき入れ替わったヤツだよ。映研版磯野」
そう言って榛名は俺を指差した。
映研版ってなんだよ。ゴジラかなにかかよ。
「なんだ磯野、やっと入れ替わったのか」
「はい、なんだかんだで」
「二日経ってやっとだね。僕たちもいろいろと調べたことがあるから、情報共有しようか」
「竹内は興味津々になると、乙女のように目が輝くなあ」
「だって映研世界の話が聞けるんだよ? 榛名は楽しみじゃないの?」
「え? あ、うん。そうだな」
そう返事した榛名は、わずかに物憂げな色を見せたあと、笑顔を浮かべた。
……榛名。やっぱり、なにかあるのだろうか。
「ほら、磯野行くよ!」
竹内千尋に手を引かれながら、俺と柳井さん、霧島榛名の四人は男部屋に移動して、それぞれのここ二日についての報告を行うことになった。
07.ボーイ・ミーツ・ガール END
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