07-09 えっと……抱き心地、悪くなかったぞ
「榛名、俺、」
「……はい」
麦わら帽に、まるでウェディング・ドレスのような白のワンピースを
その顔は、俺のつぎの言葉を、緊張しながらも、それでも……って、
……ちょっとまって。
なんかちがう。ちがうぞ。
なんで、愛の告白シチュエーション描写になってるの。
これは、あきらかに勘違いされてないか?
冷静に考えれば、たしかにそうだろう。
突然、名前を叫んで抱き着いたんだ。ふつうに考えれば、辛抱たまらん! って感じに欲情に身を任せてしまった結果が、さっきのあれになってしまうんじゃないのか? シャンプーのいい匂いもしたしな、浴場だけに。
って、脳内でダジャレ飛ばしてる場合かーい!
……ど、ど、どうしよう。
ここは、
華麗に、華麗にだ。こう、「磯野ーなんだよ、それ。HAHAHA」みたいな感じで流せるような感じのやつを……、
「えっと……抱き心地、悪くなかったぞ」
……ギャグにもなってねえじゃねえか!
俺が
「それは……どうもご丁寧に」
やっちまったー。
そのまま無言になってそっぽ向く榛名。
うわあ、なんだよかわいいな、おい。
……じゃなくて、
「いや、マジで、ごめん」
G-SHOCKを見ると、八月十三日 午前八時三分。
まえに入れ替わったのは十一日の撮影旅行の朝。やはり二日間入れ替わりが無かったということか。いままで一日置きだったものが、時間が一日延びて、二日空いてしまっている。
なぜ延びたんだろう。もしこの入れ替わり間隔がこのさき延びていくとしたら、次は二日後の十五日の朝か?
「……磯野。それでその……、つづき……する?」
相変わらず顔を赤く染めた霧島榛名が、うつむきながらそう言った。
って! え? なんの――
ええ!?
ちょっとまて。
いまのは事故だけれども!
事故ではあるけれども!
榛名もまんざらでもなかったってことなの?
さっきは、映研世界の榛名だと思って必死で抱きしめたけどさ。
……というか、照れながらの上目遣いの破壊力がやばい。これはやばい。惚れてしまいそうだ。いや、同一人物だと
けど、本当に、おなじなのか?
混乱しすぎてよくわからない。
そんなことを考え――思考停止しているあいだに、目の前の最高にいじらしい顔は、次第に疑念に満ちたそれへと変わり、とうとう確信の顔になって俺を
「あっ! もしかして入れ替わっただろ!」
「……ははっ」
榛名は両手を頬に当てて、先ほどとはべつの
そして、ふたたび俺を見て、
「さっきのセリフ、あれは無しの方向で」
思いっきり
うん。いまの流れはとても面白かったぞ。
……めっちゃドキドキしたけど。
そういえば、ここも砂浜なのか。
昨晩の記憶がよみがえる。
キャスケット帽の霧島榛名との
飛ばされた色の薄い世界にも、ここと同じような砂浜、そして海があった。
「なあ榛名、なんで俺たち海にいるんだ?」
いや――
「ここはどこだ?」
「ん?
「小樽?」
榛名は俺の顔を見て「しょうがないなあ」とため息をついた。
「磯野も大変だな。十一日にサバ
あーその光景目に浮かぶわー。目に浮かぶが、こっちの怜も同じようなことするのな。
「それでサバゲー合宿終わったから、昨日の夜にわたしもこっちに合流してホテルにも泊めてもらったって感じ」
「なるほどな。けど、なんで俺たちは朝から浜辺にいるんだ?」
「二人っきりだから期待でもしたか?」
榛名は笑った。
「いきなり抱きついてきたしな」
「それは言うな」
「けど」
榛名はまた顔が赤くなる。
「なんでいきなり……抱きついてきたの?」
榛名お前……それ
……いや、ここで話してしまうのは、いい機会なのかもしれない。
さっきは大きな誤解があってうやむやになってしまったが、この砂浜に榛名と二人きりなんだ。
「榛名」
「ん?」
「じつは、昨日……」
……まて。
いま目の前にいる霧島榛名が、映研世界の霧島榛名と大学ノートで通信していたとして、いまのいままで、そのことを誰にも話していないのはどういう理由があるんだ?
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