03-10 頭おかしいんじゃないかな俺
けど、引っかかることがある。
今朝、別れ際でちばちゃんがつぶやいた「どこに」は、なにを指しているんだろう。
顔をあげると、千代田怜と目が合った。
千代田怜は、無言のまま俺に疑いの目を向けていた。また
こういうときは
思考をめぐらしつつも答えが思い浮かぶこともなく、千代田怜をひたすら見つめかえしていたらしい。怜は次第に頬を赤らめ、とうとうあらぬほうへと目をそらした。
「なんなのもう……」
なんだコイツ、
「俺に
まるで絵にかいたかのような「はあ? あんたバカァ?」という表情になった千代田怜は、本日二回目となる実力行使を俺の
千代田怜による二度目のタイムリープ(物理)によって、意識を取り戻したときにはすでに夕方を過ぎていた。
今度は
って! 眉間にストレートとか
「磯野、おはよー」
部室に一人残っていた竹内千尋の話によると、あのあと柳井さんは学生部から無事許可を取りつけたらしい。女子高生二人が
その後、柳井さんは帰り、千代田怜と青葉綾乃は、近くの喫茶店で
「なるほどな」
「こんなかたちで撮影旅行できるなんてすごくワクワクするよね!」
千尋はそう言いながら、きらきらと目を輝かせた。よかったな千尋。今日はもう疲れたから俺は帰るよ。
帰宅した俺は、そうそうに
待ち受け画面を見ると八月九日 十八時五〇分。
今日もまた
いままで夢だと思っていたオカ研世界の記憶。
それが
そもそも俺自身、この事態をちゃんと受け止められているか、と訊かれたら、答えはNOだ。……ていうか「もう一人の俺」ってなんだよ。気味悪いどころのはなしじゃねえよ。
……その「もう一人の俺」について、気になることがある。
怜や柳井さんのはなしだと、昨日の映研でのそいつはあきらかに動揺していた。ということは、映研での「もう一人の俺」は、俺がオカ研世界で
つまり、「もう一人の俺」も、この
さらに、そのことを
――霧島榛名。
そう、「もう一人の俺」は、オカ研世界でしか存在しない人物の名前を口にした。ということはだ、あれは夢ではなく、この現実世界と、オカ研世界があって、それぞれの世界の俺が入れ替わっていたんじゃないのか?
……いやいや、なにマジになって考えてんだ。頭おかしいんじゃないかな俺。SFにしたって、もうすこしマシな設定があるだろ普通。
まて、落ち着け磯野。とりあえず、いままで起こったことを整理するんだ。そうだよ、いま俺が
よし。
まずは二つの世界の
オカ研世界にしかいないはずの霧島榛名の名前を「もう一人の俺」が口にしたこと。
そこから
昨日一日、俺とオカ研世界の俺が入れ替わっていたらしいということ。
霧島榛名はこっちの世界には存在しないということ。
この不思議な現象の数々は、一昨日の八月七日にちばちゃんの大学ノートを見て起こった
そして、俺の頭のなかには、現実世界とオカ研世界の両方の人生の記憶がいまだにあるということ。
ひととおり
俺がいまいる現実世界と、昨日迷い込んだオカルト研究会の世界。
二重人格、もしくは記憶錯誤という線もいまだにあるにはある。
ただ仮にそうだとしても、いまの状況を整理するには二つの世界の入れ替わりがあったとするほうが、スムーズに考えやすい。にしてもだ、このオカ研の記憶は、いつか消えるんだろうか。
――
……なんだこれは。
――一瞬と次の一瞬のあいだにわずかながらも違う時間と空間があったような感覚。
この感覚、なにか身に覚えがある。デジャヴュ?
一瞬と、次の一瞬の間にある隙間のようなものの「
スマホのホーム画面を見ると十九時二分。
そこへ通知音と画面が表示される。
そこに示された名前に俺は目を疑った。
はるーな「明日午前中からPC使ってるんでよろしく」
存在しないやつの名前がそこにはあった。
俺は通知をタップしてSNSを立ち上げる。
画面にはやはりオカ研グループと
なんだ、なんなんだこれは。
もしかして、俺はまた戻されたのか?
……オカルト研究会の世界に。
03.霧島千葉 END
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