02-10 訊きたいのはこっちのほうだ
SNSに榛名とちばちゃんがいない!
あわてるな。ほかに夢の世界の住人は残っていないか?
二度確認したが夢の中だけでつながっていたはずの面子は誰も見当たらなかった。そして、決定的なのは我が映画研究会グループの存在!
「戻ってこれたんだ……こんなに嬉しいことはない……」
長かった。
戻ってこれてよかった。
本当によかった。
しばらく
念のために部室に行って確認してみるか?
そこまでしなくても……いやいや、一度映研メンバーに会って確実に安心したい。そうだよ。映画研究会という現実を俺の頭に叩きつけて、二度とあんな夢を見ないようにトドメを刺したほうがいい。そして現実世界の夏休みを、思う
一時間のあと八時過ぎには文化棟へとたどり着き、管理人のおじさんから部室の
――映画研究会
……帰ってきたんだ。
安心してしまったのか、気が抜けて三階
「は……はは……」
思わず声が出ちまう。
戻ってこれた。やっと戻ってこれたんだ。
ひと心地ついてG-SHOCKを見ると、時間はまだ午前八時を数分過ぎたあたり。このもてあました時間をどうしようか。こんな朝早くから部室に来たってやることはなにもない。
かといって図書館で自習するにも、教科書も課題も持って来ちゃいない。けど帰るにしたって、また暑いなか自転車で四〇分も走るのもアホらしい。
「…………」
それなら、ほかの面子が来るまでのあいだ、部室のソファで
的確な答えを見つけ出した俺は、部室の鍵をジーンズのポケットから出し、ドアの鍵穴へと差し込む。と、あることに気づき
夢の中の――オカ研世界の記憶が、いまだに頭の中に残っている。
あの夢の記憶だけでなくオカ研世界におけるいままでの人生の記憶が、現実の記憶と並行してしっかりと頭にこびりついていやがる。
――この記憶は消えないのか?
ふと階段の方から足音が
俺以外にも朝早くから部室にくるサークルがあるのか。こんな朝っぱらから部室に通ってくるのは演研あたりだろうか。
足音は三階まで上がるとそのまま足を止めた。そして――
「あっ」
この声は。
俺は聞いたことのある声のほうへゆっくりと顔を向けた。階段を上がったところで、セーラー服姿の少女が固まっていた。少女は、昨日、そして夢の中で見たのと同じように、夏服のセーラーに鞄、そして今日はスケッチブックを胸に抱えていた。彼女は、俺を見て一歩も動けないまま立ち尽くしている。そう、その少女は、
――霧島千葉。
いや、その名前を確認したのは、あの色の薄い世界でのノートに記された名前と、オカルト研究会の夢だけだ。現実であるこの世界で、彼女の名前を霧島千葉と確認したわけではない。
彼女を目の前にして、もう一つ、気になることが頭をかすめた。
――汚れた大学ノート。
あれを見てから
昨日、部室を訪れた少女と、あの大学ノート。
この二つは、俺の身に起きた不可解な出来事のきっかけな気がしてならない。そしてオカ研の記憶――もう一つの人生の記憶がいまだに残っているってことは、まだ事態は解決していないのかもしれない。
彼女は、なぜこんなところにいるのかと言わんばかりに、俺に怯えた目を向けていた。
訊きたいのはこっちのほうだ。
昨日はじめて映研を見学にきた彼女が、翌日の朝っぱらから部室に来るなんて明らかにおかしい。しかも一人で。
まさかとは思うが、
――彼女は、俺がこの時間に部室に来ることを知っていたのか?
いや、考えすぎではないのか?
だが彼女になんらかの
不可解なことだらけだが、まずはちゃんと確認しなかればならない。
――彼女の名前を。
目の前の少女の本名が霧島千葉だとすれば、薄い色の世界やオカ研世界の夢が、現実世界と確実につながっていることになる。
俺は一歩踏み出した。
少女は俺を見て
逃げるのか? ダメだ。彼女が逃げる前になんとしても訊き出さなければ。
きみの本名は
そもそもきみはいったい何者なんだ?
02.オカルト研究会 END
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