02-09 いや、そうじゃなくてだな
さて、これからどうしたものか。
頼りにしていたオカ研の
「磯野、そろそろわたしたちも部室出るけど」
気がつくと、帰り
「あ、ああ。俺も出るわ」
「磯野、やっぱりまだどっかおかしいんじゃないの?」
「いや、大丈夫」
とりあえずこのまま帰宅するしかないか。
「まだ考えてるのかい?」
「え? ああ」
南門を出て
「診断がなんであれ、それだけ現実味のある――そう文字どおりの明晰夢だったんだよ。ショックだろうけど、二、三日すれば気分も戻るよ」
千尋よ、
「そうだよ。磯野は大変かもしれないけど、わたしたちから見たら面白い体験なんだからさ。この
珍しく怜も励ましてくるが、
「いや、そうじゃなくてだな……」
「とりあえず
怜は手を振りながら去って行った。怜のうしろ姿を見ながらふと
「そういえばこの時間って、怜のやつバイトじゃなかったか?」
「言われてみればそうだね。今日のこともあったし磯野を心配して残ってたんじゃない?」
いやいや、怜にそんな可愛げがあるわけないだろう。あったら俺だってここ一年でそれなりに意識してるわ。……って、俺の夢の中なんだからこれは俺の怜に対する
怜といいちばちゃんといい、俺にとってのこの世界は、現実よりもやさしい世界なのかもしれないな。
自宅には帰ってきたが、特になにごともなく時間が過ぎていった。
午後十時に名犬ジョンの散歩に出かけたのだが、例の夢遊病の末に目が覚めた横断歩道のまえで、ふと立ち止まった。
――この世界が夢だったとして、昨晩の夢遊病のときも実は明晰夢をみていたのでは?
いや、あのあと自宅に帰って布団をかぶるところまで、しっかりと覚えていたんだ。そうだよ、あのあとちゃんと寝るところまで覚えていたんだから、あれは夢じゃないだろう。
……本当にそうか? 夢のなかの夢なんて普通にあるだろう。そもそも夢遊病という状況自体がありえないことだ。いままで夢遊病なんてものにかかったことが無いし、もし
いままだ目覚めない明晰夢のなかにあのときもいた、と考えるほうが理にかなっているじゃないか。あと、あのとき感じた見られているような
突然、プスーっという妙な音ととともに
「なんだこれは! 毒ガスか!?」
いや、そんなものではない、これは……、
「……ジョン、お前か?」
ジョンは俺の目を見たあと、俺じゃないよ、と目をそらした。
……コイツ、屁をこきやがった。
ジョンの散歩は、その後なにごともなく無事終わった。
いまだにこの夢の世界から目覚めることなく、午後一〇時半を回ってしまった。
今日一日いろいろあったからだろうか、夢のなかとはいえ、いつにも増して
夢のなかでさらに夢を見るとどうなるかわからない。
この得体のしれない状況で眠りにつくのは、ふだんたまに見るような夢のなかの夢とは根本的にちがう気がする。が、そもそもこの夢から覚める方法がわからないのだ。
それなら、もういっそのこと寝てしまってもいいのかもしれない。夢の世界から抜け出せるかもしれないし、試してないことはとことん試したほうがいいだろう。もうこれ以上突き詰めて考えてしまうと、夢のゲシュタルト崩壊を味わってしまいそうな気分だし。
……ああ、眠い。眠気に耐えられなくなってきた。
と、そのまえに。俺はスマートフォンを手にとってSNSを立ち上げた。
なんでSNSなのかというと、明日目が覚めたときにこの夢から抜け出せているかどうかを確認できるようにするためだ。いまいる磯野家はかわりばえしないためどっちの世界にいるのかわからない。だが、明日の朝目覚めたときにSNSに誰がいるか確認できれば、どちらの世界にいるのかすぐに確かめられるのだ。……なかなか
つながってるやつは
腹を冷やさないようタオルケットだけかけて横になる。
思えば、この世界はこれはこれで居心地は悪くなかった。サークルの面子は現実の世界と同じだし、それにあの姉妹が加わっていることで、映研とは違ったにぎやかさがオカ研にはあった。
もし現実の世界に戻れたとしたら、
スズメの鳴き声が聞こえる。カーテンの
熱い! 非常に
ああ……もう朝か。六時五四分? まだ早い。日差しを回避して二度寝だ二度寝。あと数時間は……。
「うおおおお!!」
俺が
「この大バカやろう!」
俺はタオルケットを
目覚めてそうそうなにやってるんだよ俺は。
いつのまにか、ベッドの下に落ち込んでいたスマホをサルベージし、ホームボタンからすみやかにSNSのアイコンをタップする。
「ない!」
思わず俺は
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