01-09 だから寝ぼけてただけじゃないの?
「女?」
「磯野!」
目の前に、千代田怜の顔があった。
「え?」
「え? じゃないよ。なに寝てるの」
呆れ顔の千代田怜のうしろに、柳井さんと竹内千尋の姿を見とめた。
「ほら鞄だよ」
竹内千尋が俺の鞄を差し出してきた。
なんでおまえらこんなところにいるんだ?
いや、ちがう。俺が、
「……帰ってこれたのか?」
「だからなに寝ぼけてるの、馬鹿なの」
俺はいま、
映研の
次第に頭がハッキリしてきた。
俺はこのベンチで寝ていたのか?
あれからずっと?
だがそれより重要なことに気づいた。
映研メンバーたちの後ろからオレンジの光が差し込んでいる。
そう、色がある。真横にある自販機のゴオンという稼動音も。
「ここは……現実なのか!」
俺は立ち上がりガッツポーズをした。
「は?」
「え、どうしたの……磯野」
「寝ぼけてるのか? たしかに具合が悪そうだったが」
三人は、それぞれ気の毒そうな目で俺を見た。
「あ、いや、話せば長くなるんですが」
なにか
そして、その言葉を千代田怜がさきに口にする。
「だから寝ぼけてただけじゃないの?」
ああ、そうだよ。そうだよな。寝ぼけてただけだよ。だがな、
あれ? そういえば、
「女子高生たちはどうしたんですか?」
「とりあえず、体験入部ってことで今日のところはお帰りいただいた」
「え? 入部させちゃうんですか?」
「まあな。
「そんなもんですかね」
「とりあえず俺らは帰るぞ」
「あ、はい」
なんというか
まったくの
いわゆる夢オチなわけだが、実際体験してみるとホント
ただ、いまだにこの夢の
ところで長い夢といえば、俺はどれくらい寝てたんだ?
……ってあれ? 一四時? こんな夕方でそれはないだろう。G-SHOCKが止まってや――いや、動いてる。この時計、ズレてるのか? スマホはどうだ? こっちもだ。ズレてやがる。
「なあ怜、いま何時だ?」
「え? 一八時半になるけど」
「なんか時計もスマホも四時間くらいズレてるみたいだ」
「磯野の頭もズレてるもんね」
「あ?」
「けどそんなことあるの?」
そう言いながら、千代田怜は手もとのスマホの待受画面をのぞき込んできた。
近い近い。こいつはもう少し可愛げがあれば、いまの仕草にこっちも少しはドキリとさせられたんだろうが、あいにく俺の本能は無反応のままだった。いや、どうだろう。
そんなことより、もうすぐ一四時三〇分を指すこの時間は、たしかベンチに座ったときの時間だよな。てことは、四時間もここで寝てたってことか。
やっぱり、先週の疲れが残っていたんだろうか。
こうして四〇分の時間をかけて自転車を漕ぎ、一九時半には帰宅した。
夜になっても暑さが引かないにもかかわらず、食卓のテーブルには
親はどこにいるのかって? プロ野球の観戦。
我が家の名犬ジョンを散歩に連れて行くのは朝と晩の二回だったが、晩の
もともとこの
今夜も俺とジョンは
「この道、さっき通らなかったか?」
問いかけてみるも、ジョンは俺の顔を見て首をかしげたあと、なにごともなかったように歩きだした。うーむ、単なる気のせいなのかもしれない。夕方の変な夢に比べれば、違和感の一つや二つどうってことないんだが。
まさか、さっきの夢の影響で、タイムスリップみたいに時間が巻き戻された、なんてことは無いよな?
ためしにG-SHOCKを見てみる。八月七日二二時三一分。
なんの異常も無いな。
いや、異常なことが、起こった。
俺は散歩のあと、午前一時ごろに布団に入り、幸い夢も見ずに深い眠りについていた。
あの時間は布団の中にいる、そういう時間の、
……はずだった。
「は?」
――なんで俺は、コンビニ袋をさげたまま、横断歩道にいるんだ?
一瞬前まで、自宅の自分の部屋で寝ていたはずなんだ。
……ってことは、昼間のあの夢のつづきかなにかなのか? けれども、
あの夢のように無音なわけではない。
それは、いまも聞こえてくる車の行き交う音が、それを示している。
色が薄いわけでも無い。
それは、車道の青信号のランプが照らされ、正面をみれば横断歩道の信号が赤……って!
次の瞬間、背後からのクラクションと道路を照らし迫る光に、慌てて前へ飛びのいた。
「マジかよ!」
歩道に転がり込む。
あぶねえ。なんとか一命をとりとめたが、一瞬でも遅れてたら、あの大型トラックに
俺は、クラクションがドップラー効果をかけながら走り去るトラックを、唖然としたまま見つめつづける。
「…………!」
――ふと、見られているような、そんな気配を感じた。
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