01-07 ダメだ考えろ。思考を止めるな
そうだ、部室だ。部室に戻るべきだろう。
俺は一歩踏み出す。
もう一度、足音が世界に響き渡った。
――それでも、動かなければ。
廊下に出ると、さっきまで立ち話をしていた学生たちはいなくなっていた。
廊下の窓から差し込んでいた夏の日差しは、いまは無い。窓から空を見上げると、どんよりとした厚い雲のような
ここで
自分で言っていておかしいのだが、太陽や
しかし、これは
だが俺はこれと似たものに見覚えがあった。
いつだったか竹内千尋が使っていた3Dソフトの画面。あれに近い。
――
物体から離れた影は無い。
異常だ。異常なのだが、まずは――
文化棟三階にたどり着くあいだに、俺は誰一人遭遇することはなかった。
部室の前まできてもなにも聞こえない。そもそも人の
やはりと言うべきか、部室には誰もいなかった。
みんなはどこに行ったんだ?
いや、俺はどこに迷い込んだ?
そもそも、ここはどこだ?
頭が真っ白になりそうだ。なにから考えればいいのかわからない。気を抜くと
ダメだ考えろ。
ふと目にとまったソファには千代田怜の荷物がそのまま置かれている。
俺はスマートフォンを取り出して
両親も含め誰にかけてもつながらない。SNSも
頭の中に浮かび上がる疑問に思考が追いつかないまま、俺は部屋の中に視線をさまよわせていると、ソファの上に置いてあるちばちゃんの鞄が目に入った。
――あの大学ノート
いや、ノート
だが俺はあのノートを見て眩暈をもよおし、そしてこの空間に迷い込んだ。この状況に至った原因があるとすれば、あの大学ノートが一番疑わしいんじゃないのか? そもそもいま置かれている状況が、まったくもってデタラメなのだからなにが原因でも不思議じゃない。
俺はちばちゃんの鞄に手を
俺は半ばヤケクソ気味にちばちゃんの鞄の中から、何冊か収まっている教科書やノートをすべてテーブルの上に出した。
「なんで無いんだよ!」
一つだけわかったことは、彼女の教科書やノートに書いてある名前から、本名は霧島千葉だということくらいだ。
だから、「ちばちゃん」なのか。
千代田怜やほかの鞄の中もさがしてみた。だが、当然見つからない。
ぐったりとしながら本棚を見ると、映画『オデッセイ』のDVDジャケットに映るマッド・デイモンと目が合った。
俺はただ一人、この異世界に取り残されたんじゃないのか?
そうじゃなければ、あの大学ノートを誰かが持ち出したっていうのか? もし持ち出したのなら、この空間に俺以外にも人間がいるってことなのか? だとしたらなんのために?
得体の知れない存在への予感に背筋に冷たいものを感じながら、ほかに取られたものはないか部室を見回した。ざっと見た限りでは、どこも変わっているようには見えない。
――もう一人の人間
ふと、文化棟の玄関前で見た光景が頭をよぎった。
キャスケットの子。
今日一日、大学ノートのほかに
「マジかよ」
文化棟玄関までたどり着いた俺は、目の前の光景に
――この灰色の世界は、南門までしか存在していなかった。
いや、正確に言えば、南門から先が、真っ黒に塗りつぶされていた。
あれが空間なのかもわからない。あらゆる光を吸収する、いわゆる
南門まで近づいても、目の前は真っ黒なままだった。
黒い壁? それとも、何も無い空間? 目の前の黒は、壁のように大学の
……いったん落ち着け。
このわけのわからない状況を整理しろ。
この世界は、明らかに異常であることはたしかだ。
まるで夢でも見ているかのように。
――まてよ、これは夢なんじゃないか?
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