二つの世界の螺旋カノン
01.八月七日
01-01 なにを見ているんだろう
太陽が
「……暑い……つらい……
この苦痛に見合うかどうかについて、今日もまた思考をめぐらしているうちに、大学に
日差しがコントラストを作る南門に入ると、白い五階建ての
この建物には、この大学の五〇近くある文化系サークルの部室が入っていた。俺が所属する映画研究会は、この建物の三階中央にあった。
だがしかし、俺がここにきたのは部活動をするためでは無い。
世間の
横にある自転車置き場から文化棟正面へと戻ると、見覚えのあるシルエットが、
そして胸が
「よう」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
前方の敵は、俺を
「なんでFXで有り金全部溶かした人の顔してんだ?」
「ふぇ?」
「ふぇ? じゃねえよ」
「……
「は?」
ちなみに磯野とは俺のことだ。
「いやだから、なんでFXで有り金全部溶かした――」
「ちょっと……それシャレになってないから」
「怜、お前まさか本当にFXで有り金全部――」
「いやいやいや、FXには手は出してないから」
「じゃあ、なにが原因で
「全部は……! 全部は溶かしてないから……」
こいつ、
「……あのね、
「いろいろって、まさか体を売る方向で――」
空手チョップがとんできた。
「んなわけあるか
文化棟へ向きなおると、さきほどまで誰もいなかったはずの玄関前に、キャスケット帽を
その女性は文化棟を見上げていた。
胸もとに淡いピンクのリボンがついた白のブラウスに、
なにを見ているんだろう。
彼女の横顔は、帽子に隠れてはっきりとは見えない。しかし、帽子の下からのぞく白い肌とすっと通った
突然、
穏やかな
そうか。これが、
*****
一年前の入学式。
新入生とサークル
キャスケット帽に隠れた彼女の髪は、さらに短かった。
そして、
――そう、それは、
*****
車椅子の彼女がこの文化棟に足を踏み入れたとしても、二階以降にある部室フロアにたどり着くのは難しかったはずだ。
サークルに
歩けるくらいまで良くなったんだろうか。
杖をつきながらも一人立つ彼女の姿に、俺は嬉しくなった。
「磯野、なにぼーっとしてるの」
千代田怜の声で我に返った。
キャスケットの子をしばらく見つめていたらしい。
ひさびさに見かけて嬉しかったわけだが、こいつの前でにやけ
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