ここで言う冒険小説は『十五少年漂流記』のアレではなく、大沢在昌や北方謙三方面です。
舞台は北海道、無料化から永い年月を経て無法地帯と化したドウオウ(道央自動車道じゃないよ)は、「赤烏」や「熊」と呼ばれる武装集団がわずかに通行するトラックを襲う事件が頻発、ハイウェイオアシスは娼館になってお馴染みの高速道路とはまったく別のシロモノになっています。
本作はこの高速道路に消えた少女を探す男の物語です。
舞台設定が斬新ではじめは面食らいましたが、放置されて寂れたサービスエリアやハイウェイオアシスを執拗に描く描写、一般社会との関係まで目配りの利いた設定や重量感のある人物と相まって、読み進むうちにそこにある世界のように感じられます。
いくらかツッコミどころがあっても、こういうのは読者の脳裏に世界を描かせたら勝ちですもんね。
そんな場所で身を危険に晒すには「行方不明になった友人の婚約者を探す」という動機がやや薄弱に感じますが、主人公が目的に肉薄するにつれて必然性が明らかにされる構成も説得力があります。
読書中はフィルム・ノワールのように色数が少ない印象ではありますが、黒と赤を強調した映画を観た後のような読後感は、原色フルカラーのラノベからはなかなか得難いものです。
お好きな方はもちろん、それほど字数はありませんから「ハードボイルド小説を読んでみたいけど難しそう」という方には特にオススメですよ。