第3話:知らないことは、きっと

 放課後、ホームルームが終わり、帰ろうとして、友梨を探してみる。すると、大量のノートと向き合う彼女を見つけた。ので、

「何してんの」

 声をかけてみた。

「うえっ!?.....って幸奈かあ、びっくりした」

 なんで私が声かけただけでこんなに驚いてるんだ、こいつは

「で、何してんの?」

「うん?ああ、係りの仕事。ノートを職員室に持ってけ、って」

 係りの仕事ね、そういえば私の係りはほとんど閑職だな....

「手伝おっか?」

 なんとなくだけど。そんな気になった。

「e...............」

 目をぱちぱちさせて、音にもなりきらない絶句をするのは止めてください。なんだか恥ずかしく鳴ってくるから。

「なんでそんなに驚いてるのよ。手伝わなくていいの?」

「えっ?!ああ、うん、手伝ってください」

 なぜ敬語。

「じゃ、半分かして、行こう?」

「う、うん」

 道中、気になったので、聞いてみることにした。

「なんであんなに、驚いてたの?」

「いやあ、幸奈が自分から話掛けてくるってこと自体珍しくて驚いてたら、その上から”手伝おっか”なんて、今まで聞いたことがない台詞が飛び出てきたもんだから」

 ・・・・・・・・・。

「何十年もの付き合いってわけじゃないんだから、初めてのことぐらいあるでしょ」

 見透かされてるような気がして、ちょっとだけつき離したくなった。

「うーん、まあ、そうだけどさ、幸奈の場合なんていうか、前までは中身がない、っていうのかな?ま、そんな感じだったの、他人にも、自分にすらも興味がないようにみえててさ」

 ホントに、

「話掛けても、”話掛けらたから仕方なく”って感じの返答で」

 この子は、

「でも今日は違った。何があったのかはわからないけど、ちゃんと話を聞いてくれてた。初めて幸奈の声が聞けた気がするよ」

 大切なことには鋭いんだから。

「それだけでも驚いたし、嬉しかった。その上からあんな台詞だよ?そりゃ驚くよ」

 なんで、私なんかと一緒にいてくれるんだか。

「って、ごめんね、全部私の妄想にすぎないかもだけど」

 なら、せめて、”私の言葉”で返そう。

「ううん、ありがとう。」

 気恥ずかしくなって、なんともなしに外を眺めてみた。眩しい夕日のせいか、窓の汚れは、よく見えない。

「よくわからないけど、どういたしまいて」

 大きな波長でゆらゆらと動く、鮮烈な赤色の光が、私たちがいる廊下を朱に染め上げている。そのせいで友梨の顔はよく見えないけど、とびきりの笑顔をしている気がした。——なんとなく。

残念なような、助かったような———きっと、この夕日がなくても、私の顔は真っ赤に染まっているから。

 家に帰って、寝る準備を済ませて。

明日、友梨に言ってみようかな、あの夢のことと、それで私がおもったことと。

そんなことを決意して、もう寝ることにした。


———そうして私はまた、夢を見る。あの寂しさに満ちた夢を。

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世界が終わる、創世神話 山茶蛾 @tyadouga_kowai

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