第2話:きっと、”幸せな日々”

 ピピピピピ....一日の始まりを告げる電子音が鳴り響いた。

「うわっ、びっくりした...」

未だ白昼夢に囚われているかのように、虚ろな感覚でいた私を現実に引き戻したそれを止めて、時間を確認する。

 時刻は約7:30、そろそろ学校にいく準備をしないと。手早く準備を済ませ、下の階へ向かおうとして、

「...なにこれ」

学校の制服、シャツの上に羽織る上着に砂—どこかで見たことはありそうな、—がついている。どこかで着けてきてしまったんだろうか、窓もしまってるし、外から飛んできたなんてことはないだろうけど。

窓を開け、冷たい風に砂を飛ばしておく。まあ、これでいいか。早く朝ごはんを食べて、遅刻しないようにしないと。

 「おはよう、幸奈、もう朝ごはんできてるわよ。」

 下に降りて、食卓に向かうと、お母さんの声が聞こえてきた。おはよう、と挨拶を返して、食卓に向かう。TVでは、朝のニュースが流れている。どこかで交通事故があったとか、都心で建物の倒壊事故があったとか、遠い世界に感じられる出来事を、手短に淡々と伝えている。朝食を済ませ、洗顔やら歯磨きやらを済ませて、学校に向かう。

 家から出るとき、お母さんが心配そうな目で見ていたのは、たぶんきっと、気のせいだ。


「おはよう、幸奈」

「おはよう、友梨」

 自分の席につくなり、後ろから挨拶が聞こえてきたから、挨拶を返す。

 高橋友梨、クラスメイトで、いっつも眠たそうにしてて、付き合いは大体1年ぐらいになる。とは言っても、向こうから一方的に話しかけてくるだけだったんだけど。・・・正直な話、なんで私なんかに構ってくるのかわからない。

「なんか、疲れてるー?あんまり元気ないような気がするけど」

 間延びしたような声で、友梨が聞いてきた。

 まあ、思い当たるところがないわけじゃない。

「友梨こそ、元気ないんじゃないの?すっごく眠たそうな声してるし」

 なんて、ちょと皮肉じみたことを言ってみた。

「あれ、珍しい。そんな返し方するなんて」

 ちょっと驚いた顔して、そんなことを言ってくる。

 ・・・自分でも、珍しいと思う。なんとなく、言ってみたくなっただけなんだけど。

「まあ、そういうことじゃなくてー、なんていうか?悩んでる?みたいな」

 なんでこんなに鋭いんだ。いっつも眠たそうにぼけっとしてるくせに、大事なことは鋭く突いてくるなんて。

「...言いたくないならいいけど、私でいいなら頼っていいからね?」

 その上気がきく始末なのか。ホント、私が男の子だったら告白とかしてそう。

「うん、ありがと」

 なんて言ったら、柄にもなく真剣な雰囲気になったので、気まずい。

 キーンコーンカーンコーン。と、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。少し遅れて先生が入ってきて、”席座れー”というと、まばらに散って立ち話をしていた生徒たちが席に座り、ホームルームが始まる。———助かった。

 先生の他愛のない話を流し聞いて、なんともなしに空を眺めてみた。私と外とを隔てるガラスの窓は、ほんの少しだけ灰色に汚れていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る