不穏なメールは紅茶の香り

達見ゆう

不穏なメールは紅茶の香り

『加藤は始末した。次は武藤だ。』

 ある日の3時過ぎ。一人でティータイムしていたら、こんなメールが友人から届いた。一体どういうことなのだろう?加藤や武藤という名の人物には心当たりはない。

 その前に友人は何かの犯罪に手を染めたのか?それを報告する相手を間違えたのだろうか?

 そんな重大な過ちを犯す友人にも呆れるが、それよりも秘密を知った私の安全は保証できないのではないか?

 私は身の危険を感じ、飲みかけの紅茶をそのままにして逃げることにした。放置されたカップを見て、家族はまたそそっかしいと言うだろうが緊急事態だから仕方ない。

 警察へ通報?いや、そんなことは言っていられない。始末したというからにはいわば“殺したて”だろう。友人は近所だからすぐに口封じしに来るかもしれない。

 そうして私は逃亡するために取るものもとりあえず街に出たとき、友人を見かけた。まずい、出くわしたらどんな危険が待ち受けているのか。気づかれないように慌てて踵を返し走り出す。

 しかし、周りを確認しなかったのはいけなかった。急ブレーキの音、迫り来るトラック。私が記憶している限りこれが最後に認識した光景であった。


 次に目覚めた時は病院であった。どうやら私はトラックにはねられて全身打撲に足を骨折と大怪我をしたらしい。医者の説明やら、警察の聴取などあわただしく過ぎた。警察にはしつこく飛び出した理由を聞かれたが、友人に知られたらと思うと怖くて、急ぎの用事があったため周りを確認せずに飛び出したと説明して押しきった。

 ようやく一段落してスマホを手に取った。私ははねられたがスマホは無事だったようだ。友人から脅迫のメールが来ているかもしれない。そうなったら私は逃げられないから覚悟しないといけないだろう。ナースセンターから充電器を貸してもらって充電しつつ、恐る恐るメールチェックをする。

 膨大な安否確認のメールをスクロールして遡ると、あのメールを受信した30分後の時間で友人から追伸が届いていた。

『ごめん!旦那に送ったメール間違えちゃった!あのバカ旦那、ペットボトルの『美味い無糖紅茶』を頼んだのに、『美味い加糖紅茶』を買ってきたのよ。せっせと飲んで、やっと始末できた飲みきったから今度は加糖ではなく無糖の紅茶よって頼んだの。って、最初のメール誤字だらけだね、恥ずかしい!』

 …そう、昔から私はそそっかしいと注意されてきた。慌てずにきちんと確認しなさいとも言われてたのに。

 私はスマホを持ったままベッドに崩折れた。


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