キョンの消失 -ハルヒside第1章-
ジリジリ……
あたしは鳴り響く目覚まし時計を止める。眠いし、こんな寒いのに学校行かなきゃならないの?やっぱり冬は嫌だわ……
……えっ、7時50分。二度寝よ。
大変だわ、いつもじゃ二度寝なんかしないのに。朝ご飯は……いいわ、昼まで我慢するわ。間に合うかしら。遅刻だけはしたくない。あたしは学校に向かって走り続けた。
――――――――
なんとか始業までに間に合ったわ。
あれ? キョンは? 珍しく休みかしら。なぜか時間ギリギリだったのに、空席がたくさんあるわ。昨日は休みなんかいなかったはずなのに……クラスの人達の風邪の発症時期が一緒だったのかしら。まぁ、いいわ、あたしには関係無いから。
「授業を始める」
数学教師、吉崎がそう言った。
「教科書96ページ開け。・・・」
いつものようにつまらない授業だわ……
あ、SOS団クリスマスパーティ用グッズ全部忘れちゃった。クリスマスまでは、あと1週間もあるから明日持ってくればいいわ。さて、クリスマスパーティーではどんなことをしようかしら。
結局、午前中にキョンはやってこなかった。
やっぱ授業退屈だし、寒い。早く、放課後にならないかしら。みくるちゃんのお茶が欲しいわね。さて、学食にでも行こう。
学食であたしはある人物とあった。
「あら、阪中さん。今日は学食?」
「いつもそうだよ。涼宮さん」
「あれ? そうだっけ?」
阪中さんはいつもクラスの子と食べていたと思ったけど違ったかしら。
「おばちゃん。ジャムパンとクリームパン」
「はいよ。200円ね」
適当に空いていた席に着くと、阪中さんがやってきて、同じ席に着いた。
「キョンも風邪引くのねぇ~。バカは風邪引かないっていうのに」
ぼそっとあたしは呟いた。
「キョンって誰?」
「えっ!?」
この時、すごく嫌な予感がしたわ。
「キョンよ。キョン」
「だ・か・ら誰? そんな愛称の人がいたかしらね………」
キョンを知らないなんて……何で?
「そういえば、朝倉さんは風邪大丈夫かな?インフルエンザじゃないといいけど……」
朝倉さん!? 彼女は理由も告げずにカナダに突然転校したんじゃないの?
「朝倉さんて級長の? 5月に転校したんじゃないの?」
「大丈夫? 朝倉さんは入学式からずっと北高にいて、級長だよ」
朝倉さんはカナダに転校したはずよね……
だからあたしの聞き間違えよ。
キョンは絶対に風邪で休みなんだから。団員が団長に連絡をしないってどういうこと? そうだわ。キョンに電話してみよう。
『プープーこの電話は現在使われておりません。番号をお確認になってからもう一度電話してください』
あたしは動揺のあまりにそのコールをよく聞いてなかった。
えっ、何でつながらないのよ。いいわ。また放課後電話するわ。次出なかったら死刑だから。
しょうがない、教室に戻ろう。
教室に戻る途中でSOS団のマスコットをあたしは見つけた。
「みくるちゃん」
「はい、どちら様ですか?」
「何よ。その冗談笑えないわよ」
何かみくるちゃんの顔がおかしい。明らかにライオンを見る小動物のような目をしている。
「あの~本当にどちら様ですか?」
「みくる~」
「あっ、鶴屋さん。この人が」
「キミどうしたんだい? みくるファン倶楽部の一員かい? ついに女子メンバーもできたにょろ?」
鶴屋さんまで……
「あ、いや。何でもないです。すいませんでした」
どうしたの、みくるちゃん……あたしはなぜか走り出してしまったの。
やっと教室に到着した。
「あら、阪中さんの方が先だったのね」
「うん。涼宮さん何かあった?」
阪中さんが不思議そうに私に聞く。
「何もないわよ。何で?」
「目に光るものが……」
「だから何でもないわよ」
気づかなかった。あたしが泣いて……いや、あたしが泣くなんてないんだからね。
昼休みも終わり午後の授業。でも、動揺し過ぎて、何一つ分からなかった。気付いたら、午後の授業も終わっていた。
さて、SOS団部室へ向かうわ。
春先からSOS団部室として使っている文芸部室,ここならきっといつものように有希がいるはずだわ。そう思ってあたしは文芸部室の扉を開いた。
「遅れてごめーん。ってあれ?有希だけ?」
「そうだけど、何か用?」
あら有希にしては長いセリフね。いつもなら
「そう」
だけとかなのに。
「みくるちゃんは?」
「みくるちゃん……? 知らない」
「じゃあ、古泉君は?」
「古泉君……? 知らない」
まるでオウムね。
「キョンは今日風邪で休みみたいよ。バカは風邪引かないって言うのにね」
「キョン……? 誰?」
今日何度目からわからないこの感覚。
「有希まで何よ。キョンはキョンよ。SOS団の雑用」
「S・O・S・団……?」
「そうよ。ここはSOS団の部室じゃない?」
「何を言ってるの? ここは文芸部部室。SOS団なる団体の部室ではないと思う」
よく見たらそうみたいだわ。みくるちゃんのハンガーラックにはメイド服がない。それどころかハンガーラックさえない。他にも古泉君のボードゲームも、あたしが持ってきた冷蔵庫とかも……何もない。あるのは元々この部室にあったたくさんの本とあたしがコンピ研から奪ってきたのとは違う旧式のパソコン。
何か悪い夢を見ている気分だった。
本当にここは春からSOS団の部室のはず。でも、ここには何一つとしてSOS団という団体を証明するものが何も存在していない。
どうしてなの?
「有希。本当に知らないの?」
「何を?」
「キョンや、古泉君、みくるちゃんのこと」
「ここにいる私は何も知らない」
「ここにいる?」
「そう。ここにいる私。わたしはここにいる」
絶対これは偶然なんだわ。あたしが3年前に書いた宇宙宛てへの言葉と同じだ。
『わたしはここにいる』
ふと、いつかキョンが
「長門は何と言ったかな。情報ナントカ思念体、いや統合ナントカ体だったかな。まぁ宇宙人だ」
と言ったのを思い出した。偶然よね? 有希が宇宙人のはずがないわ。あれは、キョンの勝手な想像……
でも、もしかしたら、有希は宇宙人かもしれない。試しに聞いてみよう。
「有希」
「……」
反応がない。
「無視しないでよ」
「……何?」
「有希って宇宙人?」
「う・ちゅ・う・じ・ん?」
有希が首を傾げながら、答えている。普段の有希ならあり得ない行動だわ。春であったころの有希は確かに無表情でまるで感情を持たない宇宙人みたいだった。でも、最近はわずかに変化してきていることがわかるけど、今の有希ほどではない。今の有希はまるで別人だわ。
「そう」
「何を言ってるの? 私は普通の人間」
「そうわよね。当たり前よ。宇宙人がこんな身近にいるはずないわよね」
「そう」
「有希。本借りるわね」
「いい」
少し疲れていたのかもしれない。たまには本を読むのもいいわよね。どの本にしようかしら。よし、この厚いSFの本にしよう。
その厚い本『ハイペリオン』を開いたときに、ふわりと何かが落ちた。
『今夜午後7時。光陽園学園前公園にて待つ』
すごいきれいな明朝体のような字、あくまで無機質。こんな字を書くのは有希しかいない。
「ねぇ、有希このしおり知らない?」
有希は何度も見ている。そういえば、有希はまた眼鏡を掛けはじめたのかしら。
「知らない。でも私の字によく似ている。あと、裏にも字の存在を確認」
裏側に字なんて書いてあったのかしら。
『プログラム起動条件。鍵を揃えよ。最終期限3日後』
「これはなにかしら?」
「分からない。私には理解不能」
まぁいいわ。その後は有希も私も黙々と本を読んでいた。でも、この本、何が言いたいのか分からない。読んでほしいと思うならもっと分かりやすくしなさい。
「じゃあ帰る」
「あ、待って」
「良かったらこれ」
渡されたのは白紙の入部届けだったの。
「何よ。有希、ここはSOS団の部室よ。有希にしては面白い冗談だわね」
「いいから、持っていって」
「有希がそんなに言うなら、もらってあげるわ」
何か今日はみんなおかしいわね。
みくるちゃんは私のことを知らないって言うし、その時一緒にいた鶴屋さんの目付きは獲物を見る獣のような目だった。キョンに至っては風邪。阪中さんはキョンなんか知らないって言うし、有希は、いつもは“そう”とかの一単語しか言わないのに、今日は有希からしゃべってきた。
何なのよ!? みんなどうしちゃった訳? あたしが何かした……?
ねぇ……誰か答えてよ。
なんなのかしら……
何しよう……。こんな思い、高校に入ってからは始めてだった。
家に帰っても何も手に付かなずその日は寝たわ。
まだあたしの悪夢は続く。
キョンの消失 杉崎有希 @yukiazuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。キョンの消失の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます