キョンの消失
杉崎有希
プロローグ
寒い、寒いわ。またこの季節なのね。今日は12月16日。なんて寒いんだろう。こんなに色々と着込んでいるのに……本当にこの季節は嫌だわ。あたしには北国で暮らす人達が理解できない。寒いなら暑い方が絶対いい。あの3年前の暑かった7月7日のように。
そのとき、あたしは、中学1年だった。今と同じように宇宙人や未来人、超能力者を探していた。そのために様々な場所から情報を手に入れた。その中の1つを実行するためにあの日の夜、あたしは学校に侵入した。
そして、あたしは宇宙人宛てに校庭に大きく
『わたしはここにいる』
って書こうと思った。でも、当たり前だけど、宇宙人語は本を探しても見つからない。それだけはどう調べたって見つけることはできなかった。だから仕方なくあたしの想像で書こうとした。そして、学校に侵入するために学校のフェンスをよじ登っている時に、後ろから知らない男に
「おい」
と声を掛けられた。一瞬、見回りか何かと思って焦ったけど、実際はただの青年だった。つまり、こんな時間に中学生に声をかけるただの変態だと思った。でも、あたしはどんな人にも負けない。その男は後ろに女の子を背負っていた。ならば、あたしを襲うことはできない。そう思って、あたしはその男に手伝うように言った。
その男は渋々あたしの命令を受け入れた。校庭に侵入して、その男も侵入させた。あたしは使えるものなら何でも使う。その男に白線を引くように命じた。その男は、もう既にやれやれといったような雰囲気を醸し出しつつも素直にあたしの命令を受けた。今思うと、その男はまるで……キョンだった。
「そこ、右」
「あぁ、曲がってる」
白線を引き終わり、近くの階段に座った。街灯で照らされたけれど、顔はよく見えなかった。やはり雰囲気はどことなくキョンに似ていた。
とりあえず、その男に名前だけは聞いてみた。
「あんた、名前は?」
「ジョン・スミス」
きっとこの男は馬鹿だわ。どう見たって日本人にしか見えない。分かり安い嘘だわ。制服は北高みたい。北高にはこんなにユーモアのあふれている人がいるのかしら。ジョンが突如として声を発した。
「これ織姫と彦星宛てだろ?」
えっなんで分かるの? あたしが今いる東中の奴らには絶対分からない。
「なんでそんなことが分かるの?」
「知り合いで同じようなことを考える奴がいるからな」
北高にはおもしろそうな人がいるみたいだわ。調査の必要ありね。
「じゃあ帰る」
早く帰って寝ないと、昨日から徹夜でずっと今日のことを考えてたから眠かった。
確かこんな感じだったわ。そのあと、北高を調べたけど、ジョンらしき人はいなかった。あたしはジョンに会うことができなかった。でも、北高はジョンみたいなおもしろい人がいる、新しい世界を切り開けるだろうと思って、入学してみたわけ。結局、中学の時と何もかわらなかった。宇宙人、未来人、超能力者はいない普通の世界。でも中学の時と違うことが1つある。それは────SOS団。
あっ、キョンだわ。谷口のアホも一緒にいる。朝からキョンもお疲れね、あんなバカと一緒に学校へ行くなんて。それならば、あたしと一緒に……って何を考えてるのよ、あたしは。ハルヒ、ちゃんと目を覚ますのよ。
普通に後ろを歩いていると聞きたくもないキョンと谷口の会話が聞こえてくる。
「キョン、今日が何月何日か知ってるか?」
「12月16日だ。で、それが何だ?」
「1週間後に心踊る日が来るのを知らんのか」
「あぁ、終業式だな。たしかに、冬休みになるから、心踊るな」
その通りだわ、キョン。冬休みに入ったら、SOS団で夏休み同様に遊びまくるわよ。今回こそ、最終日になって宿題が終わってないとか言いださないでよね。いきなり、帰ろうと思ったら、
「俺の課題はまだ終わってねぇ」
って、キョンが言った時、結構恥ずかしかったんだから。
「違う。もう一回よく今日の日付を思い出してみろ」
「12月16日だ」
谷口は何がいいたいのかしら。
「そこに8を足してみろ。クリスマスだよ。クリスマス」
「あ……そういえばハルヒはイベントなのに何も言ってなかったなぁ。って言ってもお前も俺と似たようなもんだろ?」
谷口ナイス! すっかり忘れててたわ。ハロウィンはすっかり忘れていたけど……そうよね。来週はクリスマス。SOS団で、盛大に祝うわよ。
「それが違うんだな。俺はもうそっち側の人間ではなくなっちまったんだ」
「まさか?」
「そのまさかだ。俺のカレンダーの24日にはハートマークが付いてるぜ。」
谷口に彼女ができるなんてね、驚きだわ。天変地異でも起こるのかしら。まぁあたしには関係ない。
さて、キョンを捕まえないと……あっもう行っちゃった。なんでこんな寒いのに走るんだろう。
いつも通りあたしは授業を受け1日を過ごした。もちろんある計画を練りながら……。
あたしはいつものように1年5組を誰よりも早くでて、SOS団部室へと向かう。部室に着くと既にみくるちゃん、有希、古泉君つまりキョン以外のメンバーは揃っていたわ。流石、キョン以外。みんなしっかり会議だと言ったら団長前に来るのね。
「どうも」
古泉君はいつも通りキョンが来るまで1人ボードゲーム。
「……」
有希はいつも通り読書中。
「あ、涼宮さん。こんにちは」
みくるちゃんはメイドの衣装を纏い、あたしに暖かいお茶を出してくれた。それをごくっといただく。
「温かくていいわよ」
みくるちゃんも温かそうね。
「そういってくれると嬉しいです……ひゃっ」
あたしは気付いたらみくるちゃんに抱きついていた。やっぱり温かい。
みくるちゃんに抱きついていているとあたしの前の席のアホ面──キョンがやってきた。
「キョン遅かったわね」
遅いわ。団長のあたしより遅いって何様のつもり?
「あっキョンくん、こんにちは。今、お茶煎れますね」
「どうも」
古泉君はボードゲームの相手が来てくれて嬉しいみたいだわ。
「なんでみんなこんなにも早く揃ってるんだ?」
キョンがいつも通りのアホ面であたし達に問い掛ける。
「今日は会議だからわよ。キョンだけよ。団長より遅く来るのは」
そう言うとキョンは咄嗟にこう叫んだ。
「そんなの聞いてねぇ」
「そういえばキョンに言ってなかったかしら。いつでも言えると思ってたから」
確かに言おうとは思ったけどすっかり忘れていたわ。
「今からSOS団主催クリスマスパーティのことについての会議を始めます」
まぁ会議と言っても何をやるかを決めてるけどね……
「みくるちゃん、クリスマスの日に予定入ってない?だれかに夜明けの雨が雪に変わる瞬間を見に行こうとか誘われてない?」
「何かロマンチックですね。でも、クリスマスの日は空いてます」
そう言いながらみくるちゃんは目をキラキラさせていた。
「古泉くんは?彼女とデートとか行ったりするの?」
「残念というべきでしょうか。25日前後のスケジュールはぽっかり空いてます」
「それは幸せなことだわ。有希は?」
「ない」
即答だったわ。まるであたしの質問を予想していたかのように。
「そう。一応聞いてあげるけどキョンは?」
「ない」
キョンはもうちょっと個性を持ちなさい。有希と反応がまるかぶりだわ。
あたしの予想通りみんなSOS団のために空けておいてくれたのね。キョンはいつでも暇そうだけど。
「全会一致で採決されました」
「やることは、鍋パーティです。他にやりたいことある?」
「…………」
なんでみんな黙ってるのよ。まぁすぐに考えろって言われても思いつかないよね。
「じゃあ何かあったらあたしに言ってよね。聞くだけはしてあげるから。これで会議は終了」
そのあとはあたしはネットサーフィン、みくるちゃんは編み物、有希は読書、古泉君とキョンはボードゲーム、それぞれが好きなことをやっていた。
しばらくはそのように過ごした。でも、クリスマスグッズを買いに行こうと思ったから、
「本日はこれにて解散」
あたしはそう宣言した。そして、そのままクリスマスグッズが売ってそうな店に行った。とりあえず、定番だけどクリスマスソングのCD、カラースプレーとかを買ったの。そのあと、店を回ってたら奥の方にサンタの衣装、トナカイの衣装を発見。このサンタの衣装はみくるちゃんに着させてあげよう。トナカイの衣装はキョンにでも着させるわ。
そのあと、家に帰ったの。いつも通り家にいても特にすることないと思っていたら電話が鳴った。誰からかしら。
「涼宮さんですか?」
「あぁ何だハカセくんね。どうしたの?」
ハカセくんはあたしの近所に住んでる小学生。その子の家庭教師をたまにだけどやってあげてるの。
「あのぅ、ちょっと分からない所がありまして……」
「じゃあ今から行ってあげるからちょっと待ってて」
「はい。お願いします」
やっと終わったわ。小学生とはいえ、すごい難しい問題だった。高校生のあたしでもちょっと悩んじゃうくらい。よくあんな問題を解くわよね。
そのあと、することもなかったからお風呂に入って寝たの。
ここまでは本当にプロローグに過ぎなかったわ。この次の日からあんなことが起こるなんて。何であんなことが起こっちゃったの? あたしはあのことを夢だと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます