6th Flight 流れ出す澱み

「えぇっ? ついてくる?」

 貴族艇旭晨の客間にて。素っ頓狂な声を上げたのは、金糸雀帝国第一皇女、紅さんその人だった。お姫さまらしからぬその声が響いたこの部屋に今いるのは、部屋を宛がわれていた紅さんと、弟皇子のレン、紅さんに呼ばれていたわたし。そして、その三人に対峙するようにいるのが、この船の主である旭晨家の当主とその娘、棘縉という女の子だった。目前に並ぶ旭晨親子は、揃ってニコニコしている。

「えぇ。是非わが娘もお連れ頂きたいのです。我が一族は魔術の名門、足を引っ張ることはないと存じます」

「はい! 是非ともわたくしもともにお連れ下さいませ! わたくし、以前絵姿を拝見した時からずっと、沐漣さまのこと……きゃっ、わたくしったら」

 何やら一人で盛り上がっている様子の棘縉さん。ポッと染めた頬に両手を当てて顔を背ける彼女の肩に、父親である旭晨家のご当主は、微笑みながらポンと軽く手を置いた。紅さんは渋い顔をしてるし、レンも戸惑いを隠せない表情をしているんだけど、このご当主はお構いなし。紅さんたちがますます面食らうようなことを言い出した。

「この娘もこのように申しておりますし、何より紅姫さまは大魔女の再来と謳われるほどの魔術の使い手。花嫁修業にちょうどよいでしょう。ウチなら家柄を見てもなんら問題ないはず」

「は、花嫁ぇ?」

「はい、是非とも后候補としてよろしくお願い致します」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 まだまだ続きそうなご当主の暴走に、紅さんは慌てて待ったをかけた。旭晨家の申し出は受け入れられない、相応の事情が、金糸雀側にもあるみたいだった。紅さんが言いにくそうに、それを説明する。

「旭晨家ともあろうお方なら既にご存知でしょうが、沐漣は災殃因果律を有するとされています。その蔓延を防ぐため、皇帝によって生涯その婚姻は禁じられております。次々期皇帝はこの紅の子と決定しておりますし、これは私の一存では覆せません。仮に皇帝に話が上がっても、果たして相手にされるかどうか……」

 紅さんの告げた内容に、わたしは凄く吃驚した。金糸雀の兵士も言っていた【災殃因果律】という言葉の意味が未だにわからないけど、とにかく、何か大変なものをレンは抱えていて、そのせいで疎外されているだけじゃなくって、結婚まで禁止されているなんて。だけど、そんなことは旭晨家の人たちにとっては既知の事実だったようで、大して衝撃を受けた様子はなかった。わたしだけ事情を知らない蚊帳の外って感じ。ご当主たちなんてむしろ、平然とした顔でこう言ってのけたし。

「恋は障害があったほうが燃えます」

「恋は障害があったほうが燃えますわ」

 なんていうか、子が子なら親も親っていうか。旭晨家は紅さんたちが思っていたより、お気楽能天気な貴族一家であったらしかった。

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