6
甲板へ出たわたしは、夜の闇に浮かぶ月の光の眩しさに、思わず目を細める。それを見上げた途端、懐かしい歌が頭を掠めた。月が怖いと泣いたわたしに、兄貴がくれた大事な歌……。
おーつきさんで ぺったんたん
うさぎがもちつき ぺったんたん
小さく口ずさんでいると、背後からカタン、と音がした。ギョッとしてわたしが振り返ると、そこに立っていたのはレンだった。嘘、なんでこっちの船にいんの? 今は向こうの船にいたはずじゃなかったの?
「今のは……」
レンが不思議そうに声を上げた。マズい。今のがわたしの世界のスタンダードな歌だと思われたら、とんでもない誤解を招いてしまう。わたしは慌てて取り繕った。
「あっあのねっ、その、兄が作った歌なんだ、コレ。つ、月が良く見えるから思わず歌っちゃったんだけど……」
変な歌だよね、というわたしの言葉は、レンの言葉にかき消された。
「……兄が、いたのか?」
「え……うん」
途端に声のトーンが落ちたのが、自分でもよくわかった。だけど、次の瞬間には切り替えた。
「もう、死んじゃったけどね」
一年も前に……。そう言ったわたしの顔は、場にそぐわないほど笑んでいたに違いない。
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