5th Flight 貴族艇旭晨

「姉上、右手前方に貴族艇が見えます」

 紅さんが書物漁りの手を休めて、彼女の自室でわたしと一緒にお茶を飲んでいた時。操舵室で船の行方を操っていたレンが、紅さんに知らせを持ってきた。それを聞いた紅さんは、椅子から立ち上がって船の進行方向の右側の窓に寄り、ガラスに張り付いて外を眺める。

「あれは……旭晨(きょくしん)家の飛空艇ね」

「あの……貴族艇って、なんですか?」

 わたしは素朴な疑問を口にする。

「数は少ないけれど、金糸雀からも竜蹄からも独立した居住空間としての飛空艇を持つ貴族たちがいるのよ。その貴族たちの船を総じて貴族艇って呼んでるの。って言っても、大抵は帝国か王国のどっちかに与してるんだけど……旭晨は金糸雀側ね、ちょうど良いわ」

 紅さんが視線をわたしのほうに移しながら答えてくれる。何がちょうど良いのかさっぱりわからないわたしは、助けを求めるようにレンのほうを見る。

「オレたちは突然なんの準備もなしに出航した。足りない物資を補給するのに、協力関係にある貴族艇は欠かせないんだ」

「そーいうこと。まっ、要するに食べ物とか分けて下さいってお願いするのよ。空の上では助け合いってね」

「はぁ……そーいうものなんですか」

「そう、そーいうもんなの。ってことで、さっ、レン、あの船に……」

 金糸雀の都市船が巨大すぎたから感覚が狂ってるけど、旭晨艇って呼ばれてる船もかなり規模の大きな飛空艇だった。わたしがこの世界の慣習を無理やり納得しようとしていると、再びガラス窓の向こう側を覗き込んだ紅さんが小さく声を上げる。

「あらっ?」

「姉上?」

「ちょっとちょっと、あれってば魔物に襲われてるんじゃなぁい?」

 紅さんにそう言われ、レンも慌てて窓辺へ駆け寄ってくる。

「そんな……先ほどまでは確かに静かだったのに」

「旭晨家は魔術師の家系とはいえ、あの数はいくらなんでも多いわね……食糧危機だわ。レン、恩を売りにいくわよ」

「姉上、それは言葉の使い方が間違っ……」

「ガタガタ言わない! ほら、とにかく船をつける! いざ、出陣!」

 紅さんに無理やり言いくるめられて、レンは仕方なしに、船を旭晨艇に向わせるために再度操舵室へ戻っていった。こうしてわたしたちは、魔物と抗戦している旭晨家を助太刀しに、旭晨艇へ向かうこととなったのだった。

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