4th Flight 発作

「……い、おいお前! えぇっと、咲枝!」

「ん……」

 ガクガクと肩を揺すられる感覚がして、わたしはふるふると瞼を開けた。途端、眼前に沐漣さんの顔がドアップで迫ってきてて、意識がはっきりすると同時に驚いて後ろへずり下がった。うわ、心臓に悪い。

 そんなわたしの動揺も知らずに、一方の沐漣さんは、わたしがとりあえず無事であることを確認して、胸を撫で下ろすような仕草をする。

「……沐漣さん? あれ、わたし……」

 目の前の顔が沐漣さんだと認識すると、次にわたしは自分の状況を思い出そうと頭をフル回転させた。確か、あらぬ疑いをかけられて城内で追いかけられて、船の上から飛び降りたはず……。そのままの姿勢で固まったまま、暫し目をパチクリさせてそこまで考えたところで、沐漣さんが怒鳴ってきた。

「バカかお前はっ! 船から飛び降りるなど、一体何を考えている!」

「なっ、バカはそっちでしょう! 何一緒に落ちてきてんですか、死んだらどーすんの!」

「それはお前もだろうが! こうして生きているから良いものの……」

「って、そういえば、なんでわたしたち、無事なんですか?」

 言い争いを一時休戦して、わたしは辺りを見渡した。船上から見えていた、魔気と呼ばれていた黒や紫の煙のようなものはそこにはなくって、眩く輝く銀の光が満ち溢れていた。まるで仙人でも住んでいそうな清廉な気配。幻想的って、まさにこういう雰囲気を言うんだと思う。後でそれを聖気って呼ぶんだって、わたしは知ることになるんだけど。

「なんですか? ここ」

「【凍れる泉】、だ。聖なる結晶石が採取できることから、そう呼ばれている……なるほど、ここに落ちたから無傷なんだな。信じ難いほど奇跡的だが……」

「うっ……わぁ!」

 沐漣さんが口元に手を当てて現状を分析している間に、わたしは悲鳴を上げた。沐漣さんが、何事かとこっちに視線をやってくる。わたしはまたもや、沐漣さんの飛空艇の燃料室でやってのけたのと、同じ現象を起こしていた。つまり、聖気の結晶を吸い込んでいた。

「な、なんかまた入ってきてるぅ~! わたしの身体、どうなっちゃったの?」

「また、か? この現象にしろ、ここに落ちたことにしろ……偶然にしてはできすぎている……」

 慌てふためくわたしを前に、沐漣さんがどうしたものかと思案している。すると突然、わたしたちの頭上に圧力がかかってきた。ゴウンという大きな音が響き、強い風が周囲を舞う。わたしたちが同時に見上げると、その声は届いた。

「レーンッ! 咲ちゃーん!」

 それは、紅さんが、乗っている飛空艇の甲板から身を乗り出して張り上げていた声だった。

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