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居住区を出たオレは、甲板にて順調に魔物を倒していた。現在この場にいる人間はオレ一人。ここにはオレを守ってくれるような護衛はいない。戦って、飛空艇を守れるのは己の腕ただ一つだけだ。自分の身一つも満足に守れないような軟弱者であるのならば、お前ごとき必要ない――それが、【彼女】の下した、オレへの処遇だ。
(……数が多いな)
近日稀に見る多さの魔物だった。まるで何かに惹かれるように、この飛空艇に集まってきている。オレが訝しみながらも応戦していると、背後にある居住区の入口のほうから、何やら言い争う声が聞こえてきた。
「困ります、咲枝殿! お部屋に戻って下さいまし!」
「冗談じゃないわよ! あの人、貴女たちの主人なんでしょ? なんで誰も助ける人がいないのよ?」
咲枝と名乗ったあの女と、部屋に残してきた侍女だった。あの言い分だと、彼女は侍女に尋ねたのかもしれない。この飛空艇には侍女しかいないのか、争いごとを補佐するような者は存在するのか、と。侍女はもちろん、オレが一人で戦っていると答えたのだろう。何せオレには護衛はつかない。ここにいる侍女たちでさえ、本来ならばオレの下についていていい者たちではないのだから。
彼女は不安に思っているのかもしれない。自分たちの命がかかっているのに、オレ一人に任せっきりでいるこの状況を。彼女はオレの強さを知らないから、オレが一人で戦っていると聞いては、部屋でのんびりしている気にはなれないのだろう。
そして、箒のような物を掴んで振り回している様子から察するに――いつオレが凶刃に倒れ、自分の身にも危険が迫るかわからない。それならば最初から加勢したほうが効率的ではないか――そんな風に考えたのではないだろうか。どう考えても戦力にならない一般人にしか見えないが、既に半分以上混乱しているであろう彼女の頭の中からは、そのようなこと、吹き飛んでいるに違いない。
「沐漣さまの剣の腕は国の誰もが知るところ! 私たちが出たところで足手纏いです、どうか安心してお部屋にお戻り下さい!」
「これが安心していられるかっての!」
「お前、何で出てきた……っ!」
声のする方へ顔を向けたところで、オレは危うく魔物の攻撃を受けそうになった。すんでのところで顔を背けて避けたは良いが、咲枝たちの出現で気が散ってしまった。確実に疲労も影響してきている。
(マズい……)
「沐漣さん、後ろっ!」
咲枝が侍女の制止を振り切って駆けてきた。翼の生えた魔物が背後に迫る影が見える。オレが咲枝の声にハッとして振り向くより、咲枝が前に出るほうが速かった。
(当たる……!)
オレが内心ヒヤッとした時。なんと魔物は、咲枝の中に吸い込まれてしまったのだった。
「うわっ……えっ、えっ?」
てっきり痛い思いをすると思っていたらしい当の本人も、驚きに満ち溢れた顔をしている。先に聖気の結晶石を吸い込んだのを彷彿とさせる出来事だった。更に驚くことに、次の瞬間には、その魔物は再び咲枝の身体から現れたのだ。そうして、彼女の周りをぐるぐると飛んで、離れようとしない。端から見ると、まるで懐いているようにも見受けられた。
「なっ、何々? なんなのこれ……?」
「お前、一体……」
(オレと同じ……? いや、それとも違う……)
オレと咲枝が困惑している間にも、魔物はバタバタと飛びながら何かを訴え続けている。当然だが、オレたちには魔物が何を言いたいのかなどわからない。
「えーっと、助けてくれるってことで良いの?」
咲枝が当てずっぽうに尋ねると、魔物は肯定するかのように跳ね上がる。咲枝はヤケクソになりながら声を上げた。
「よーっし! なら、まずはあっちからやっつけちゃって!」
咲枝が指を差すと、魔物はすぐさまその方面へ飛んでいった。唖然としているオレの前で、仲間割れと言えなくもない闘いを繰り広げ始めた咲枝の魔物。咲枝が示した方向へ従順に攻撃を繰り出す魔物を前に、敵の一軍はいとも簡単に片付けられてしまった。
「………………」
オレはこの咲枝と魔物の一件で、咲枝をなんとしても金糸雀へ連れ帰らなければならないと改めて強く感じた。と同時に、このあまりにも自分と同じ異質な少女に関する皇帝への報告を、どうしたら良いものかと思い悩むことにもなるのだった。
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