飛空艇の航行は順調。このままでいけば、今回も無事、予定通り任務を遂行できそうだ。もっとも、いくら功績を上げようが、陛下がお気に召さないことなどわかっている。むしろ陛下は、オレが成果を出せば出すほどご気分を害されるきらいがある。その程度のこと、とうの昔に諦めがついているというものだ。雑念を払い、闇が渦巻く眼下の地上を静かに流し見る。たとえ陛下がお気を悪くされるのがわかっているのだとしても、任務を放棄する訳にはいかない。甲板の柵に腕を伸ばし、集中して、求めるモノの気を探る。

(いつまで、このようなことを続けていられるものだろうか……)

 軽く溜息を一つ吐きながら、オレは柵をゆっくりと握り直した。

(結晶が絶えるのも時間の問題。そうなれば国は沈む。そもそも、それがなくなる前に……)

そこまで考えて、オレは顔を自然と歪めた。

(オレは、一体いつまでこうしていられる?)

「も、沐漣(もくれん)さま!」

 と、船に同乗している侍女の一人が、血相を変えてこちらへと駆け寄ってきた。同時に、船内の異常を知らせる警告音が辺りに鳴り響く。ただならぬ様子に、オレも気を引き締め直した。

「何事だ」

「それが、燃料室で不審な物音が……!」

 この時侍女から聞かされた知らせがもたらした事態は後に、オレの理解の範疇を超えたものとなるのだった。

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