わたしに限らず、今うちの学校は面談ラッシュな時期だった。わたしの面談はもう終わった。そこでわたしは、志望調査書に第一志望を付属大学の国文科にしたことを、同席したお母さんに知られることになる。自分で言うのもなんだけど、成績は悪くないほう。特に国語系は、学年一位も珍しくない。だから内申点は申し分ないし、これで先生も親も文句ないなんて思い込んでた。なのに先生は、あろうことか「池の成績で内部進学は勿体無い」なんて言って、外部受験を勧め出した。それが、今朝のお母さんの発言に繋がる。わたしが良いっつってんのに、なんでそれで終わりにしてくんないんだろうか。

 面倒なことは、それだけでは済まなかった。学校に着いた途端、今度はそこでも、わたしは質問攻めに遭う羽目になったのだ。面談なんて密室で行われるはずなのに、高校生の情報収集能力は侮れない。どこから嗅ぎつけてきたんだか知んないけど、大して親しくもないクラスメイトが、いそいそと群れを成してやってくる。自席に辿り着いた時になんとなくそれを察知したわたしは、内に秘めた嫌悪感は引っ込めて、即座に仮面を貼り付けた。準備、万端。よし。

「ねぇねぇ咲ぅ。アンタ、内部行くんだって~?」

――うるさい。

「なんで他大受けないのー? 折角頭いーのにさぁ」

――黙れ。

「でも国語の女王だもんねー。国文科ってチョー合ってると思うー!」

――なんにも知らないクセに。

「今決まれば三月まで遊び放題だし?」

――ほっといてよ。

「そうそう、一般なんてメンドイだけじゃん。内部でいけば超楽だし」

 最後の発言はわたしの。無理して嫌いな話し言葉で合わせてんの、バレバレ。でも、こうでもしないと、この集団からは即刻爪弾きにされるんだ。それはわたしの望むところじゃない。だから必死になって周りに合わせて、思ってもいないこと口にして。だけどみっともなくご機嫌伺いする傍ら、同時にこうも思うんだ。

――バカだな、自分。何やってんだろ……。

 そうこうしている間に、朝のショートホームルーム前のチャイムが鳴った。次のチャイムで着席していないと遅刻扱いだ。わたしを取り囲んでいた女子たちも、蜘蛛の子を散らすように自席へと去っていく。それにふぅ、と一つ安堵の溜め息を吐きながら、わたしも同じように椅子を引いて席に着いた。

 それから後は特に大した出来事も無く、無難な一日が過ぎ去ってゆく。

――やっと、今日が終わる……。

 放課後になると、わたしは毎日のようにそんな感想を抱く。時刻はまだ夕方で、二十四時間あるという意味では、一日はまだあと少し残っている。だけどわたしにとっての一日は、学校の終わりと同時に幕を閉じる。あとは部屋に閉じ籠っていれば、演技をし続ける必要が無いもんね。

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