サワが梨咲の血を吸ってしまってから数日。茜がいるところにはサワが現れ、サワがいるところには梨咲が現れるという、なんとも奇妙な状況が生まれていた。サワのほうは一瞬、なんとか梨咲を上手く使って茜を嗾ける方法がないものかとも模索したのだが、如何せん梨咲が突拍子もないというか、サワには予測不可能な行動を取ることが多いので、今ではもうその線は完全に諦めていた。茜は茜で、なんだかよくわからないが、最近セットで自分の周りをうろちょろしまくるサワと梨咲が、鬱陶しいことこの上なかった。この日も休憩中に二人揃って仲良く現れた(というように茜には見える)かと思いきや、目の前で、

「木下だ、失礼する」

「アカネ、こんな奴の言うこと真に受けちゃダメだよ! なんせこの人はきゅ……ふごごご」

「うるさい。貴女は邪魔だ。消えてくれ」

「消えろですって? それが女の子に対する言葉?」

 などと口論を始めるので、茜は遂に、堪忍袋の緒が切れてしまった。

「……あのさぁ、お前ら最近なんな訳? 俺は真面目に仕事してんの。遊びでやってる訳じゃないの。いい加減、ウザい。出てけよ!」

 茜の綺麗に整えられた顔が、怒りと苛立ちに激しく歪む。思いのほか大きく出てしまった声は、梨咲の目を真ん丸にさせた。その目は次第に、うるうると涙を湛え、

「い、今まで、ウザがられたことはあっても、怒鳴られたことはなかったのに! 木下さんのせいだ!」

 と、一方的にサワに責任を押し付けるなり、彼女は一人、その場を駆け去ってしまうのだった。

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