5
ト音記号のペンダントトップに意識を集中させると、レンハの頭の中には様々な映像が流れ込んできた。最初に登場した若い男女の、女のほうは理由ではなかった。男性からネックレスを贈られると、女性は嬉しそうにそれを受け取る。どちらもレンハの見たことのない人間だった。やがて男女は結ばれ、一人の子を儲ける。こちらはどこか理由に似ているような風貌だったが、それでも理由本人とは少し違うような気がした。やがてその娘も大人になり、ある男性と結ばれる。それは、つい先ほどまでレンハが話していた理由の父親だった。つまり娘は、理由の母親ということになる。
理由が産まれると、間もなく祖父と思われる男性は亡くなった。その悲哀が、トップを通して伝わってくる。しかしそれが、理由の成長とともに癒されてゆくことも伝わってきた。
映像は、女性――理由の祖母と思われる人間が、ペンダントを幼い理由に譲る場面に移る。理由はこのペンダントに込められた意味を、祖母の口から熱心にきいていた。
しかし、悲劇は起きる。
倒れる祖母、狼狽える理由。祖母が亡くなると、人が変わったように理由を詰り始めた母親。両親の離婚、周囲の同情の目、父の愛……そうして理由が進路を今のように決めた所以。
「今度こそ、誰も死なせない」
「私が絶対に、助け出してみせる」
目を見開いて、レンハは自分の思い違いに愕然とした。ずっと、理由の心配する気持ちや助けたいという想いは、偽善者の言うそれだと思ってきたのだ。
「違う……」
呟きながら、自然と駆け出す。空を飛んで探したほうが断然速い、それはわかっていたものの、今は何故か、この足で走って探さなければ意味がないような気がしていた。
「違う、違う……! 偽善なんてそんなのじゃない、こんなのは……」
強迫観念。その四文字が、レンハの脳裏に浮かぶ。優しさや偽善などから来るものではない。彼女は、必要に迫られて、そう思わざるを得なくなっているのだと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます