内藤家の門の前。レンハが思わず理由を見送ってしまったまま佇んでいると、中から慌てた様子で理由の父親が現れた。「あれっ?」と怪訝そうな表情をする父に、レンハは咄嗟に友達だと言ってしまう。

「理由の友達……あぁ! 中学の時のかな?」

 そう言われて、レンハは一瞬しまったと思った。理由が今通う高校は女子校だ。普通に考えて男の同級生はあまりいない。だが一度口にしてしまった手前、それを通すしかこの場をおさめる方法はどうにもなさそうだった。

「ま、まぁ、そんなもんっす。ちょっと借りたもん返しにきたんすけど……内藤さん、どうしちゃったんですかね? 向こうへ走って行っちゃいましたけど……」

「ハハハ……ごめんね、ちょっと喧嘩みたいになっちゃって」

 そう言う間も、理由の父親は落ち着きがない。きっと今すぐにでも探しに行きたいのだろう。その気持ちは、今のレンハも同じだった。

「内藤さんの行きそうな場所、どこかわかります?」

「えっ?」

「ボクも彼女に用があるんで、探しますよ」

「そ、それは……助かるよ……けど、荷物を何も持ってかなかったんだ。あまり遠くには行かないとは思うけど、あの子がこの辺で行きそうな所とか、恥ずかしい話、よくわからなくてね……」

「じゃあ、昔一緒に遊んだ場所とか当たってみるっす。内藤さんの親父さん……ですよね? 親父さんは、内藤さんが戻って来るかもしれないので、ここで待ってみたらどうっすか? ボクの携帯の番号渡しとくんで、入れ違いにならないように」

 レンハから提案を受けると、理由の父親は一度家の中に戻り、メモ帳とペンを片手に再び現れた。二人はそこで互いの連絡先を交換すると、父親は家で待機、レンハは心当たりのある場所を探す、あまりにも見つからないようなら警察に連絡する、といった段取りを確認した。

「その……理由がもし見つかって、あの子から事情を話すようなら、きいてしまっても構わないから……もし良かったら、相談に乗ってあげてくれないかな?」

 レンハはそれには曖昧な笑顔で応え、「必ず見つけますから」と一声掛けてから、理由の家を飛び出した。と言っても、レンハにも明確な当てがある訳ではなかった。何せ彼自身、理由のことを知ったのはここ数週間のことなのだ。理由が行きそうな場所など、まず見当もつかなかった。わかるのは恐らく、学校ではないだろうことのみ。

「この力、あんまり使いたくないんだけどな~……」

 そうぼやきながらレンハが手にしたのは、ト音記号の首飾り。そもそもレンハは、これを彼女に返そうと思って内藤家へやってきていたのだった。飾りには、千切ってしまったものとは別の、新しいチェーンを通してある。その真新しいチェーンを垂らし、ペンダントトップだけを握り込む。そして、そこに刻まれた記憶を読み取るべく、祈るように額の前にかざしたのだった。

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